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2006年04月 アーカイブ

2006年04月09日

愉(たの)しんで!

先日、イタリア・トリノで行われた冬季オリンピックでは大会期間中、毎日のように新聞・テレビなどで選手たちの活躍が取り上げられ、私たちの間でも常に話題になり名前が出てくるほど日本人選手への期待は大きいものがあった。

しかし欧州のトリノという離れた地では長野オリンピックのように日本人選手たちの笑顔は少なくいい結果には恵まれなかった。そんな中、日本で唯一メダルを獲得したのが女子フィギュアスケートの荒川静香選手だった。しかも冬季オリンピック・女子フィギュアスケートでは日本人初の金メダルという快挙だった。

私は、彼女が試合後のインタビューの中でコメントした言葉が印象的で忘れられなかった。それは「力まず愉(たの)しんで滑ることができた!」だった。その言葉には選手として、とても自然で忘れてはいけない大切な意味のある言葉のように思えた。

この舞台に立つためには過酷なトレーニングも沢山してきたはず、精神的にも辛かったことは多いはず、しかしオリンピックという大舞台では「力まず愉しんで滑ることができた!」というように自然体で本来あるべき姿で自分を表現した。小さな頃からスケートをやらされて来た人ではこんなコメントは帰ってこないはず、どんな形で初めたとしても、スケートが好きになり滑るのが愉しく、上手になりたい、自分の演技を皆に見て欲しいなど、厳しい中にも自分から学び滑ることで自然に自分を表現し、夢中になって時間を過ごすなど、愉しみ方を知っている人の言葉である。

サッカーのようにカバーしてくれる味方はリンクの上ではいない、個人スポーツという孤独で精神的にも厳しく辛いことも多い中で、たった世界で一人しか選ばれない金メダルを獲得することは並大抵なことではない。何年か前までは「日本のために頑張ります!」「絶対金メダルを取りたいです!」など、コメントを聞いていても4年に1度のオリンピックの重要性や大舞台での緊張感があることは理解できるが、大会を愉しもうという選手は少なかったように思えた。硬くなりプレッシャーになったり、選手によっては自分がいっぱいいっぱいになっていたり、どうしても記録や結果が思うように伸びなかったり出せなかったりするのは、そんな愉しさや少しの遊びといった柔軟な心を忘れてしまっているからかもしれない。

勿論、厳しく精神的にも張り詰めた中で特に世界を相手に日本の代表として戦う選手にとって緊張することは普通のことで緊張感はなくてはならない大切なことでもある、世界はそんなに甘くないこともわかっているが、荒川選手が金メダルを獲得できたのは、表現力やセンス、技術や体力などは勿論のこと張り詰めた緊張やプレッシャーの中で「愉しんで滑ろう!」というスポーツ選手にとって根本的なことを忘れていなかったからではないか、愉しむことで表情も変わり自然に自分の身体を動かすことができ、無心に近い状態から素晴らしいパフォーマンスが生まれたのではないか。今回の冬季オリンピックでスポーツは「愉しむことが必要だ!」ということを金メダリストが教えてくれた。

そして「幸せだった!」とも彼女は言ったように、金メダルが取れたのは、いろんな人の支えがあったからと、感謝の気持ちも忘れていない。両親からしてみれば子供へのサポートは無償の愛であり、自分の好きなことに一生懸命打ち込み、愉しんで滑ったりボールを蹴ったりしている姿を何よりも望んでいることだと思う。

美味しいものを食べたり、高価なものを買ってもらったりすることも幸せなことかもしれないが、夢中でボールを蹴り続け追い続けるように、何事においても思い切り愉しみながらチャレンジし、一つのことに情熱を注ぐことができたことが、人生の中でも一番幸せなことなのかもしれない。

※今回「楽しんで!」をあえて「愉しんで!」にしたのは、楽(らく)とも読めるから。
あくまでも愉快で気持ちよく愉しめたほうがいいと思ったから。


2006年04月29日

Vamos Jogar mais

先日初めてフロンターレ試合の解説をしました。4月16日のJリーグ第8節対大宮アルディージャ戦です。試合の方は序盤こそ少しもたついたところがあったものの、20分過ぎからは圧倒的に我らがフロンターレペース。そこから先制するまでに時間がかかってしまったのですが、後半17分に箕輪の今季初ゴールが出るとあれよあれよと3得点。その直後に与えてしまった1点はちょっといただけませんでしたが、全体的にはすばらしい内容。開幕戦以来となるホームでの勝利を見届けることができました。久しぶりに訪れた等々力競技場は満員とまではいかないまでも、ようやく暖かくなってきた陽気もあってかまずまずの入り。そしてあの“Gゾーン”の盛り上がり、雰囲気の良さも健在で、我が家に帰ってきたかのような気持ちになりました。

そんなスタジアムで向島さんと久しぶりにお会いしました。向島さんといえば交互にこのOB'sコラムを担当しているのですが(ベティも忘れてないですよ)、そのコラムの中での向島さんの『愉しんで!』という内容にとても共感できることが多かったので、その楽しむということについて今回は書きたいなと思います。

その『Tatsuru's Check』の中でトリノオリンピックでの荒川選手のことを取り上げていたのですが、楽しむ姿勢というのはスポーツ全般において実際にとても重要なことだと思います。国のためとかそういったことは抜きにして、まず自分が楽しむということ。そもそもの話ですが“スポーツ(sport)”という言葉には“遊び、楽しみ”といった意味があります。例えばサッカー、フットボールというものは元々大衆の娯楽でした。プレーすることにおいても見ることにおいてもです。この“プレーする(play)”という言葉にも“遊ぶ”という意味があります。また試合のことを“ゲーム(game)”とも呼びますよね。“ゲーム(game)=遊び”でもあります。実はスポーツというのは遊びであり楽しむべきものなのです。

観戦する皆さんにとってのいいゲームというものにはふたつの要素があると思います。選手たちが一生懸命プレーする姿というのは心を打つものですね。まずはこういったピリピリと緊張感のある試合がひとつ。そしてもうひとつにワクワクする試合というのがあると思います。常にアイディアを駆使し、次にはどんなプレーをしてくれるんだろうと思わせてくれるゲームです。こうしたゲームには選手たちに相手をやっつけるアイディアが溢れ出てきます。「こんなフェイントで抜いてやろう」とか、「こんなパス通されたら相手は嫌がるだろうな」といったアイディアです。こういったものは楽しんでいるからこそ出てくるものだと僕は思ってます。選手としてもサポーターとしても、緊張感とワクワク感が程よくブレンドされた試合というのは最高のものだと思います。

そうした楽しんでプレーするということが身に付いているのがブラジル人選手です。彼らはどんなにプレッシャーをかけられようともビビりません。そこをこじ開けてやろうとします。僕はプロ生活12年間をずっとブラジル色の濃いクラブでプレーしてきました。その中で感じたことのひとつに、ブラジル人はミスを怖がらないということがあります。さらには自分がミスしても次にまた自分によこせと周りに要求できる強さ、図太さもあります。普通上手くいかなくなるとどうしても消極的になり、自分からボールを触りにいくことができなくなるものです。僕も現役時代、何度もそういうことがありました。しかし彼らは違います。何回失敗しようとも自分で相手をやっつけてやろうとするわけです。自分がプレーするのです。自分で相手をやっつけようとするのです。

昨年まで一緒にプレーしていたアウグストもそうでした。明らかにコンディションが良くないという時でも自分からフェイントかけて勝負して、ボールを取られても取られても仕掛けて、最後には一発得点に絡んで結果を残す。サッカーに対する姿勢です。怖がらないで、楽しんで、アイディアを出すのです。多くのブラジル人監督とも一緒に仕事しましたが「自分からプレーしなさい」ということをよく言っていたのを思い出します。それから「自分のパーソナリティを出せ」とも。きっとそういうことを重視しているし、そうした姿勢が身体に染み付いているのでしょう。

そういった意味では先日のフロンターレのゲームは見ていて楽しい試合でした。ワクワクさせてくれたと思います。みんなが仕掛けていって、たくさんのアイディアがピッチの上に散らばっていました。フロンターレの等々力でのホームゲームでは、ワクワク感で盛り上がって勝つことが、僕がいたころからも多かったと思います。きっと選手もサポーターも「ともに楽しもう」という気持ちで戦いに臨んでいるのです。それがあのスタジアムでのワクワク感につながっているのではないでしょうか。

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