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OB'sコラム

Ready,Betty,Go!

2006 / file03

メンタル

久野智昭
Kuno,Tomoaki

1996年、東京農業大学よりフロンターレの前身、富士通川崎に加入。本職のボランチに加え、サイドもこなすユーティリティープレーヤーとして9年の長きにわたりフロンターレを支える。2005年12月、惜しまれつつも引退。現在、フロンターレ強化部スカウト担当として人材発掘に邁進中。
1973年9月25日生まれ、静岡県出身。170cm、68kg。

今年からスカウトとして高校・大学の試合を見に行く機会が多くてその中で気づく事があります。それは試合の流れのことです。緊迫した0対0の試合のときにどちらかが先制すると立て続けて追加点をあげるという試合を目にします。これは、Jリーグでもたまにある傾向だが高校・大学の試合でも数多く見られます。一つはメンタルの影響だと思います。

今回はこのメンタルについて書いてみようと思います。
現役時代に僕が一番感じたのは、外国人のメンタルの強さでした。その中でもアウグストやジュニーニョは逆境に立たされた時のパフォーマンスがすごいと感じました。彼らは試合前に日本人が集中するために静かにしている選手が多い中、大きな声で歌を歌ったり、冗談を言ったりしています。しかし、いざ試合になると近寄りがたいオーラを出しているのです。彼らの切り替えはすごいなっていつも見ていました。

ちなみに僕はバスで試合会場についてウォーミングアップまでの時間が約1時間位あるのですが、この時間がいつも長く感じていました。自分はテーピングも巻かないので、グラウンドに行ってピッチ状態を確かめるぐらいで、あとは仲のいい選手と少し離れた場所で雑談していることが多かったです。このことは現役の時に無意識にしていたことで、今考えてみると緊張感を試合までの間にため過ぎないようにしていたのかもしれません。

選手が試合に臨むうえで必要な条件は、やはり適度なリラックスと高い集中力、そして気持ちの高まりだと僕は思う。その他にミスからの気持ちの切り替えが大切だと思います。これはJリーグの試合や練習を見ていても分かりやすいです。試合が始まって最初のタッチでミスをするとそのあとのプレーに影響を及ぼす選手がいます。それは気持ちの切り替えやプレーの整理がついてないことが要因となっているからです。
自分が選手だった時は積極的なミスのときはそのプレーに納得でき次に切り替えられるが、消極的なミスをしたときには引きずることがありました。テレビ画面では自信を持ってプレーしている選手もミスしたら「交代させられる」「次の試合使ってもらえなくなる」などいろいろなことを考えて緊張感をもって試合をしているのです。そのときにどう考えて自分で整理するかがメンタルの部分です。巨人の桑田投手は自分のミスや味方のミスで失点してしまったときは3点取られても攻撃で4点取ってくれるとポジティブに考えてプレーいるらしいです。要するにチームとして個人としてどうポジティブに考えられるかにつきると思います。

ではメンタルを強くするにはどうしたらいいかということになりますが・・・。僕はこんな話を耳にしたことがある。それは象が小さい頃、鎖につながれて育ちそのまま大人になったとき簡単にはずせるはずの鎖をはずせないというのです。この話は、与えられた環境が当たり前であり、その環境に順応してしまい、それ以上、鎖をはずすなどのチャレンジをするという考えをもたないということです。このような現象は、今の子供達にも言えるかと思います。情報社会の現在、自分から考えなくても答えはすぐに導きだされるのです。与えられた環境、すなわち家庭や学校など成長する過程での環境によって人格やメンタルが変わってしまうのです。子供たちは敏感に大人の期待を感じとっています。どうすれば大人が喜ぶか、教えられた通りの答え(行動)を取ればよいことを知っています。その一方で過度の期待によりチャレンジすることに臆病になっている子供もいます。だからこそ自分の考える力が大切になります。自分の考えた目標に向かってそして、失敗を繰り返し、いろいろなことを経験していくことで自然とメンタルの向上につながっていくと思います。それが人間の成長にもつながっていくと思います。

では、選手の場合どうかということですが、選手に関しても試合を見ていると感じることがあります。それは、気が利く選手が少ないということです。失点した場面で冷静にどう攻撃するのか、どう守備するのか自分たちで考えられるということが必要です。例えば監督からの指示を待っている間にまた失点しまう可能性もあるからです。自分たちで考えて行動して修正すること、目標をもってそれを達成するために考える。そのために自分自身をコントロールできる力が必要だと思います。

メンタルは子供の頃からオフ・ザ・ピッチでいろいろなことを感じ、またいろいろなポジションを経験することで、選手としての幅を広げていくことができると思います。あたえられた環境から自分自身で切り開くことでメンタルの強さが生まれてくるのではと感じています。
メンタルに強く、気が利く選手がこれからは必要となってくると思います。スカウトとして、そういう点でも選手を見ていこうと思っています。

2006年11月01日 久野智昭

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