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OB'sコラム

over the pitch

2008 / file02

U-16秋田国民体育大会 エピソード2

大場健史
Oba,Kenji

1967年8月14日生まれ、神奈川県出身。 Jリーグ創設時の鹿島アントラーズのメンバーとして活躍。その後、柏レイソル、当時JFLの川崎フロンターレに移籍し、闘争心あふれるアグレッシブなプレーでチームを鼓舞し続けたDF。引退後、U-13からU-18まで幅広い年代の強化・育成に携わり、子供たちからの信頼も厚い。現・川崎フロンターレU-15監督。

「ミニ国体・そして秋田へ」

今年は、なんとしてでも本大会に出場したい。
そのためには、8月の関東ブロック大会(ミニ国体)を勝ち抜かなければいけない。この大会は関東から4チーム(8チーム中)が出場でき、一発勝てば本大会へ、負ければ敗者復活戦へ回らなければいけない。

神奈川県の対戦相手は千葉県。千葉はタレント的にはかなり多くJクラブ、高体連と質の高い選手が多く、フォワードに190cmの選手がいて、そこを基点としての攻撃が多い。われわれは、その日に向けての準備を進めた。4月、5月に高校2年生の早生まれの選手たちをセレクトし(国体は早生まれの出場が可)月2回のトレーニングそしてゲームをこなしていった。
去年の神奈川のゲームを分析し、勝つためには何をすればいいかスタッフでミーティングをした。攻撃は一人一人が多くのアイデアを持ち、ボール支配率は非常に高いのだが、守備が不安定でカウンターでの失点が多かった。トレーニングは攻撃よりも守備重視で多くの時間を費やした。彼らに要求したのは、「奪われた瞬間に誰が最初にボールにアタックに行くかここを曖昧にすると失点をしてしまう、だから常に頭を働かし次への予測をしなければいけない。」8月は猛暑の時期で、普通にしていても頭がボーッとし集中力が無くなってしまう、だからプランをしっかりとたてなければ勝つことが出来ない。トレーニングとゲームをこなしていくうちにプレーの質は非常に高くなってきた。選手間でのコミュニケーションも多くお互いが何を要求しゲームを支配していくのか明確になってきた。全て調子いいがこうゆうときこそ落とし穴があるので気が抜けない。

ミニ国体はそんなに甘くない、一発勝負、猛暑、プレッシャーとの闘い。彼らに話したことは、「プライド、ポジティブ」。チームの代表として、神奈川の代表としてのプライドとこのピッチに立つことに感謝すること、しかしそれはサッカー人生の一つの通過点に過ぎない、君たちはここから日本代表そして世界に行かなければいけない、だから立ち止まってはいけない、前に前に進むべきだと伝えた。
今年のメンバーは非常に戦術的な理解力があり能力も高い。チームでやることに素早く反応しゲームで表現してくれる。そして何よりも戦う意欲がある。全国にはうまい選手はたくさんいるが貪欲に戦う選手は少ない、これではただのサッカー選手で終わってしまう。サッカーで飯を食うなら、しっかりとした目標そして強い意志を持ちプロで活躍できる選手にならなければいけない。彼らにはその可能性がある。だからメンバーとして選んだのだ。

2007年8月21日、いよいよ関東代表を決める一戦が始まる、ここで必ず勝って本大会へ行きたい、この気持ちは両チームとも同じ、しかしどれだけその気持ちを多く持ち、結束力を高めることが出来るかが勝利へのカギとなるか。私たちは必ず勝つ、勝つためにメンバーを決め、勝つためにトレーニングをしてきた。

場所は埼玉スタジアム第二グランド。天然芝のピッチコンディションは最高の状態、気温は35℃、グランドレベルは40℃に達するだろう。しかし負けるわけにはいかない。
更衣室の中では選手たちがミーティングの時間まで色々なことをやっていた。音楽を聴く者、スパイクをチェックする者、入念にストレッチをする者、仲間と話している者、目を閉じてイメージトレーニングをしている者(寝てはいないよ!)。この光景は現役時代を思い出す。私も同じ事をやっていた(懐かしい)。
全体のミーティングでは、選手に伝えたことは、「今までやってきたことを、どれだけ表現できるか、そして強い気持ちを相手より多く持つことが出来るか、そして一つになれるか。この3つが今日の試合のポイントだ」と。彼らは必ず出来ると私は信じていた。

キックオフの時間が刻一刻と迫ってきた。選手のリラックスした顔から勝負の顔に変わってきた。手をつなぎ円陣を組み、目を瞑りゲームのイメージを最大限に頭にやきつけ、そして気持ちを一つにピッチに入っていった。
AM10:00。前半がスタート。さすがにピッチ場は暑い、40℃はいっていると思う。そんな状況でも選手達は一つのボールを懸命に追いかけていた。スタートから2分。横浜FMユースのFW榎本が味方のスルーパスから相手DFの裏を取りキーパーと1対1。冷静にゴール右隅に決め先制点を決めた。選手、スタッフみんながこのゴールに喜んだ。その後は、千葉県の190cmのFWを基点に攻めてきたが、そこは川崎FユースのDF大和田、セカンドボールに対して川崎FユースのMF岩渕が対応し相手の攻撃を阻止していた。われわれの攻撃は、グランドを広く使い、テンポよくボールを動かし、サイドからの攻撃を多くして相手のゴールに襲い掛かった。狙い通りに前半21分に日大高校の早生まれの2年生MF大貫が豪快に決め2点目。同じくMF大貫が33分に3点目を決め前半を折り返した。

ハーフタイムの更衣室。選手の顔には安心感が見えた。選手たちは「これで決まった」。「千葉県はぜんぜんだね」と話している選手。私は選手たちの話している会話を聞いて激怒した「お前らサッカー甘く見るな。まだ終わっていない。ひとりでもそんな気持ちがあるならそこから穴が空き、攻められ崩され失点してしまう。今までやってきたことが全て無駄になる、それでもいいのか、終了のホイッスルがなるまで、体がぶっ倒れるまで走り通せ、ボールを追い掛け回せ。」と私は言葉に力が入った。選手たちの顔は、硬直していた。キャプテンである横浜FMユース中田がみんなに声をかけ「スタート時の気持ちで行こう」とみんなを盛り上げた。

10:50、後半スタート。千葉県は攻守共に激しかった。必死になって神奈川のボールを奪い、早くゴール前に運んできた。そして後半4分神奈川県のDFのクリアーミスを拾いシュート、失点。スコアは3-1。まだ千葉県の猛攻は続く。なかなか神奈川県のリズムが作れない。そして9分にサイドから崩されゴール前にクロス、中で競り合ったが相手が一歩早く触りゴール。スコアは3-2。
サッカーは何が起こるかわからない世界。だから見ているほうは面白いかも知れない。しかしピッチ上は命がけ。これ以上の失点はしたくないので川崎FユースGK奥山とDF陣に「マークをしっかり付け」キャプテンに「あわてるな、しっかりと声を掛け合え、ボールを動かせ」とコーチングをした。彼らには修正する能力はあるので必ずリズムを変えられると思った。それから10分間は非常に激しいゲーム展開となった。相手のDFに疲れが見えてきたところに私は選手の交代を命じた。横浜FMユースの俊足、塩田を投入し彼には「相手DFはかなり疲れが見えてきた。背後を多く狙え」と伝えてピッチに送った。彼は持ち前のスピードを活かし、相手DF陣を翻弄した。そして25分にFWの榎本が個人技で相手DFを抜き去りゴール。スコアは4-2とした。千葉県のリズムが落ちてきた。そして30分、FW榎本がこの日3点目となるゴールを決めてくれた。この瞬間はスタッフもガッツポーズを披露。残り10分、うまく交替選手を入れながら時間を使った。そして試合終了のホイッスル。
スタッフもサブのメンバーも大喜び。われわれは念願の本大会出場を手にしたのだ。結果は大差だが、内容は苦しかった。よく選手たちは最後まであきらめないで頑張ったと思う。一瞬緩んだメンタルをしっかり自分たちで修正して得た勝利。やはり彼らを選んでよかった、誇りに思う。

いよいよ1ヵ月後の9月29日。秋田国体がスタートする。この大会は、トーナメント方式で一発負けたら神奈川に帰らなければいけない。最後の決勝まで行くには、もう一度課題を修正して全員の心を一つに準備をしていく。

2008年05月01日 大場健史

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