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OB'sコラム

Soma's Eye

2006 / file03

ワールドカップ

相馬直樹
Soma,Naoki

清水東高、早稲田大学を経て1994年、鹿島アントラーズに加入。その後、2002年、東京ヴェルディ1969、2003年鹿島アントラーズを経て、2004年、川崎フロンターレに加入。豊富な経験値でJ1リーグ昇格を支え、2005年12月引退。現在、川崎フロンターレ・クラブアシストパートナー。
国際Aマッチ通算59試合4得点。1971年7月19日生まれ、静岡県出身。175cm、72kg。

みなさんもご存知のとおり、ワールドカップに行ってくることが出来ました。本場ドイツでのワールドカップはいろんな面で素晴らしかったですね。ホスト国ドイツがいい形で勝ち進んでいただけに、ドイツ国内での盛り上がりも非常にあって、さすがサッカーどころと思わせる大会となりました。

僕自身は直接スタジアムで9試合を観戦してきました。もちろん生でトップレベルの戦いを見ることが出来たのもよかったのですが、それ以上に、今までのピッチとは違う雰囲気、盛り上がりというものを肌で感じることができたことは、僕にとって非常にいい経験でした。
その9試合のうち僕にとってのベストゲームは、準々決勝フランスvsブラジル戦です。このゲームでのジダンはまさに神がかり的で、全盛期以上のプレーを見せてくれました。あのブラジル代表を手玉にとってしまうジダンのプレーを目の前で見ることが出来たことは、まさに幸運以上の何者でもないといっていいでしょう。僕はジダンのファンなのですが、キックオフ前にはこの試合が彼の引退試合になるんだろうなとなんとなく考えていました。最後の輝きを放つものの、王者ブラジルには勝てないのではないかと。僕個人としてもこの観戦の翌日にドイツを立つことになってましたから、最後に見るゲームがあのジダンの引退試合になるんだななんてちょっと感傷的になってたわけです。今考えればブラジルがここでジダンに引導を渡してしまえば、決勝でのあの退場劇もなかったのになんて思ったりもしてるんですけどね。

さて今回のワールドカップで感じたのはなんといっても個の強さ。身体能力という話だけではすまされない、個人個人の戦う力というものが際立っていたように感じました。これは2002年日韓大会のときもそうでしたが、11対11の戦いの前に1対1がベースにあるということを強く感じました。今大会カンナバーロやガットゥーゾといった選手たちの活躍が目に付いたことにもそうした流れは表れています。球際の争い、ボールの奪い合いでの身体の使い方といった部分に、日本と世界との差を感じました。
もうひとつ世界との差としてあげたいものに、パススピード、キックというものがあります。これも以前から言われていることなのですが、世界のパスはひとつスピードが違います。また今大会でのミドルシュートの多さを思い出してください。いかに強く、正確に蹴ることができるか。もっと日本も追求していかなければならない部分であると思うのです。
キックというものの技術が上がればパスのスパンは長くなります。より遠くにいる味方にパスできるようになるのですね。最終ラインからのなんとなくのフィードではなく、味方FWの動き出しに合わせたパスになるのです。クロスにしてもそうです。今大会非常に感じたのが各国のセンターバックの強さでした。本当にクロスボールに対して強く、上でも下のボールでもはじき返します。そうしたこともあって、きれいなセンターリングからのゴールというものがあまりありませんでした。それだけの大きく高い壁を前にどうゴールを奪うのか。日本人の身長から考えれば、そのボールの質というものを極めていかなければならないことは明らかでしょう。

サッカーは日本語で「蹴球」と書きます。ボールを蹴るというスポーツということですね。ひとつこれは本質をついた訳語であると思います。キックするということがいかに重要な要素なのか。レベルが上がればお互いのプレスもきつくなり、なかなかドリブルやショートパスで相手を切り裂くことは難しくなります。そうしたとき、どうやってゴールに近づくのか。一本のスペシャルなキックが必要なのです。もちろん受け手の動き出し、戦術的な部分などそうしたパス、キックが活きるために必要な要素はたくさんあります。しかし基本としてボールを正確に、強弱も長短も合わせて蹴る技術を持っていないと話になりません。
どうしてこの部分が日本人にとって大切なことかというと、ここが世界と戦うための武器になるのでは思ったからです。日本がフィジカル勝負に出ては勝ち目がないことはみなさんもお分かりでしょう。もちろんその部分を逃げてはいけません。球際での争い、ハードワーク、1対1で打ち勝つ力というものを求めていく必要があります。ただそれが日本人の長所にはなりにくいことは明白です。
日本の新しいセールスポイントをどこに求めるかというと、キックではないかと思うのです。日本人は器用ですし、細かいことは得意です。しかし本当にサッカーの戦いの場で生かされるものなのか。細かいテクニックを駆使して相手を外す、かわす、相手の逆を取るなどスキルフルな日本人好みのプレーというものがあります。しかしこれは相手のボディコンタクトで無力化されてしまうことが多々あります。そういったことを含め、ボールを扱う技術を伸ばしながらどう日本の武器にしていくかと考えたとき、キックのレベルを上げることではないかと思うのです。それも近くだけでなく、遠くまで。弱いキックだけでなく強く蹴っても正確にということです。
ボールを完全な支配下に置いたとき、そうはボディコンタクトは受けません。ファールになってしまうからです。ルーズボールを作らなければいいのですが、パスがずれると相手に身体をぶつけられてしまいます。正確に強く、遠くの広いスペースの選手に出す力があれば、余裕を持って受けた選手はまたそこでアイディアを発揮することが出来るでしょう。正確なキックで早くボールを動かす。日本人のテクニックを生かす方向がここにあるのではないかと思うのです。

自分も現役時代「オレはうまく蹴れないな、差があるな、何とかしなきゃ」と、世界のプレーを見るたびに思っていました。今回のワールドカップを見て同じ思いをした選手もたくさんいるはずだと思います。その成果が表れてくることを期待しながら、Jリーグ後半戦に注目していきたいと思ってます。

2006年08月26日 相馬直樹

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