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OB'sコラム

Soma's Eye

2007 / file03

基本技術の差

相馬直樹
Soma,Naoki

清水東高、早稲田大学を経て1994年、鹿島アントラーズに加入。その後、2002年、東京ヴェルディ1969、2003年鹿島アントラーズを経て、2004年、川崎フロンターレに加入。豊富な経験値でJ1リーグ昇格を支え、2005年12月引退。現在、川崎フロンターレ・クラブアシストパートナー。
国際Aマッチ通算59試合4得点。1971年7月19日生まれ、静岡県出身。175cm、72kg。

前回ACLのことを僕は書いたが、我らがフロンターレは堂々と予選リーグ突破を果たしてくれた。選手、スタッフ、クラブ関係者、そしてサポーターのみなさんには、おめでとうとここで言わせていただく。簡単ではないグループリーグを突破したことは、本当に素晴らしいことであるし、胸を張っていいことであると思う。

間違いなくフロンターレの選手たちは成長している。特に最大のライバルといわれた全南ドラゴンズに一歩も退かない戦いを挑み、内容的にもスコア的にも素晴らしい勝ち方をしたことは自信にもなっただろう。振り返ってみると、初戦のアレマ・マラン戦での苦しみながらの勝利と、ホームで引き分けたバンコク・ユニバーシティ戦が選手たちを大きく育てたのではないか。初めての国際ゲーム、そしてアジア勢と戦いのなかで怖さを知り、そうした中でもポイントを重ねられたことが、全南との対戦に大きく生きたはずだ。

だが、喜んでばかりはいられない。ACLはここからがある意味本番。韓国、中国といった東アジア勢だけでなく、中東の列強たちとも顔を合わせていくこととなる。またナビスコカップ決勝トーナメントでも順調に勝っていけば、まさに9月以降は殺人的スケジュール。その中で、フロンターレらしいゲームをして勝ち上がっていって欲しいし、チャレンジしていきたいところだ。

そのACLの戦いの中で、印象に残る一戦があった。第4節ホーム等々力での全南ドラゴンズ戦だ。キックオフ前から降り始めた雨と、ボールが走りやすい短い芝の影響もあって、なかなかボールが落ち着かない。まるでピンボールのようにボールがめまぐるしく動いていく。だが15分もするとフロンターレの選手たちは、ボールを落ち着かせられるようになる。それに対して全南の選手たちは、ボールをなかなか足元に収められない状況が続いていた。
これを見ていて思い出したのが、95年に僕が初めてブラジル代表と戦ったとき(アンブロカップ)のことだった。0-3で敗れてしまったこの試合。イングランドの地で対戦したのだったが、まあスコア通りと言うか、スコア以上と言おうか。基本技術の差をまざまざと見せつけられたのを今でも覚えている。

ヨーロッパの土は少し粘土質で滑りやすく、またこの日は雨が降っており、ピッチがよく滑って、ボールが走っていたことを思い出す。その中で、ブラジル代表選手たちは足からボールがまったく離れなかったのだ。それもトップスピードで動きながらである。さらに当時の加茂代表監督はゾーンプレスという戦術でプレッシングサッカーを標榜していたから、それなりにプレスがかかっていたはずである。だが、3人ぐらいで囲い込んで完全に「獲れた!」と思うところでも、落ち着いてボールをコントロールされ、簡単にサイドチェンジされたりしたのだった。

なかでもよく覚えているのが、ルーズボールに僕が反応して取りに行ったら、そのボールをトップスピードで拾いに来たジーニョ(当時横浜フリューゲルス)がバックスピンをかけてコントロールして、突破されてしまったシーンである。自分の感覚では、あれだけのプレッシャーとスピードの中では、足元からボールが離れてしまうのが当たり前。絶対にマイボールになると思ってプレッシャーをかけにいったのだった。世界というのはピッチの状態とか関係ないんだな、逆にこういう状況こそ技術の差がはっきりしてしまうものなんだなと痛感したものであった。
話が12年も前に遡ってしまったが、もう一度先日の全南戦に戻ってみよう。この日もスリッピーなピッチ状態だからこそ、技術の差がはっきりと出たのだろう。3-0というのはスコア通りと言っていいだろうか。きっと全南の選手の中には、12年前僕が感じたのと同じようなことを感じた選手もいるかもしれない。それぐらいスタンドの上から見ていても、基本技術の差というものを感じるゲームであった。

勝敗も大切なゲームであったのだが、それ以上にこうした確固とした技術の差を見ることが出来たことは、日本サッカーが進んできている方向が間違っていないという意味で、非常にうれしかった。ただ今回の全南は韓国の中ではスキルで勝負するタイプではないチームだったとも聞く。他の韓国のチームや、中東のチームなどにはフロンターレよりもスキルの高いところもあるかもしれない。サッカーは技術だけでなく、戦術や、フィジカルといった要素や、さらにはもっとも大切なメンタルな要素を必要とする。そういった意味でも、今後のフロンターレのアジアでの戦いを後押しすべく、多くのみなさんにスタジアムに足を運んでもらえたらなと思っている。

2007年05月20日 相馬直樹

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