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OB'sコラム

Soma's Eye

2008 / file03

関さんの植え付けたスピリット

相馬直樹
Soma,Naoki

清水東高、早稲田大学を経て1994年、鹿島アントラーズに加入。その後、2002年、東京ヴェルディ1969、2003年鹿島アントラーズを経て、2004年、川崎フロンターレに加入。豊富な経験値でJ1リーグ昇格を支え、2005年12月引退。現在、川崎フロンターレ・クラブアシストパートナー。
国際Aマッチ通算59試合4得点。1971年7月19日生まれ、静岡県出身。175cm、72kg。

ゴールデンウィークも過ぎ、今日(5月10日)は前半戦最大の山場ともいえる浦和レッズとの一戦。この原稿を書いている時点(5月6日現在)では、その結果を知る由もありませんが、果たしてどのような結果となっているでしょうか。

この試合を迎えるにあたって我らがフロンターレは、4連勝と好調を維持し暫定ながら3位という位置まで順位を上げてきました。タイトル奪取を意識してスタートした今季でしたが、フッキの退団騒動などもある中スタートダッシュにつまづき、さらには関塚隆前監督が体調不良により高畠努新監督と交代するという大アクシデントがありました。そうした状況において今のフロンターレは、選手、スタッフ、そしてサポーターすべてが一致団結した強さを見せてくれています。

そこで今回は、関さんの話を書かせてもらおうと思います。すでに一度、僕自身のオフィシャルサイトでも触れさせてもらったのですが、『OB'sコラム』の順番がこの時期に回ってきたということもあって、話をさせてもらいたいと思います。

関さんと僕がアントラーズで、長い間コーチ・選手の間柄であったことはご存知の方も多いことかと思いますが、実は学生時代すでに監督・選手という関係でありました。僕が早大2年生の時(91年)に初めて関さんと出会っていたのです。そして04年には、関さんにフロンターレに連れてきてもらい、翌05年に引退したわけですから、僕の現役生活のほとんどの時間を、関さんとピッチに立っていたわけですね。
ですから関さんとはよかったことも悔しかったことも、いろんなことを経験してきたわけですが、その中でも03年末にフロンターレに来るときに関さんから話してもらったことを書きたいと思います。

そのとき、フロンターレを一緒に昇格させようという話をいただいていたのですが、その中で関さんがしてくれた「組織作り」という話がとても印象的でした。関さんは一年でのJ1昇格にこだわっていましたし、そこからのJ1での戦いも見据えたチームを作りたいという話もしていたのですが、この「組織作り」という言葉で表されていたものは、もし自分(関さん)がいなくなったときにチームの方向性が無くなってしまうことは避けたいということでした。それはすなわち、フロンターレにチームカラーを定着させる仕事をしたいということだったと思います。

現場での話とすれば、サッカーの方向性を共有するということが挙げられます。関さんは「ベクトルを合わせる」という言葉をよく使いますが、これは、例えば「この状況ではカウンターだ」とか、「この展開ではサイドチェンジだ」というようなことを、11人全員が同じように感じるということです。それがないと、「速攻だ」と思った瞬間にバックパスが入ってしまったりということが起きるわけで、こうしたプレーの意図を合わせることはとても大切なのです。またベクトルを合わせておくことによって、誰が出場してもチーム力にバラツキが無いようにすることも可能になります。そうして作り上げた安定した組織力の上に、個の力が最大限発揮されると関さんは考えているはずです。

また組織力をつけていきたいと考えていたのは、選手たちだけにはとどまりませんでした。僕が加入した04シーズン当初、関さんが自分自身でスカウティングビデオの編集をしていましたが、05年には高畠コーチ(当時、現監督)が、07年からは今野コーチが担当しています。このスカウティングビデオとは、自分たちの試合の反省や次の対戦相手の分析するために使いますが、90分の試合をおおよそ10分から20分ほどにまとめて編集してあります。このとき重要なのが、どのプレーを問題にして指摘するのかということですが、その作業を任せるということは、監督とその編集担当者との間でサッカー観の共有が必要になりますよね。こうすることによって、関さんはコーチングスタッフと関さんの頭の中にあるサッカーを共有してきたわけです。
ですが、そうしたサッカー観の共有というもの以上に重要なのは、継承されるようなスピリットを植え付けることなのかもしれません。サッカーに真摯に打ち込み、勝利を貪欲に追及する。目の前の試合を全力で勝ちに行く。ピッチに立っている11人だけでなく全選手で戦うといったこともそうですね。こうした「フロンターレ=戦う集団」というスピリットを、関さんは植え付けてきたのではないでしょうか。

こうして考えてみると、フロンターレがここまで積み上げてきた方向性を失わずに今後も進んでいけるのかどうかこそが、監督・関塚隆の真の成果として問われることになると思います。もちろんそれは高畠新監督が色を付けることを否定するものではありません。共有してきたベクトルに高畠新監督の新しい方向性を加味していくことで、さらにチームは飛躍していくことでしょう。高畠新監督にバトンが渡ってから4連勝と、一気に上昇気流に乗ったフロンターレですが、今後もフロンターレらしい戦いを続けていってもらいたいと思います。

最後になりましたが、関さんにはまずゆっくりと休んでいただきたいと思います。その上でリフレッシュしてパワーアップした関さんが、いつかまた等々力でタイトルにチャレンジする日を待っています。

2008年05月10日 相馬直樹

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