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SEASON 2014 / 
vol.01

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FW13/Okubo,Yoshito

「プレッシャーを楽しめ」

FW13/大久保嘉人選手

テキスト/麻生広郷 写真:大堀 優(オフィシャル)

text by Aso,Hirosato photo by Ohori,Suguru (Official)

2013年Jリーグ得点王、Jリーグベストイレブンを初受賞。
移籍1年目からチームの得点源として大活躍を見せた大久保嘉人。だが「まだまだいける気がする」と本人が語るように、
新シーズンも観客の度肝を抜くスーパープレーを見せてくれそうだ。

やりがいを感じながらプレーし続けた2013年

「チームとしてはそんなに満足するような内容ではなかったけど、まぁ結果的にはよかったよね」

リーグ戦を終えてひと息ついた頃、大久保嘉人に2013年のチームについて聞いてみると、冷静な答えが帰ってきた。

「勝てたっていうような試合はどのチームもあるかもしれないけど、それにしてもうちは取りこぼしが一番多かったと思う。だからリーグ戦が終わってみて正直、この程度で3位に入ったのかっていう感じもあったけど、逆に3位になったことで1試合の重みを痛感した。そういう意味では後悔の方が大きいかな」

確かに2013年のフロンターレは決して順風満帆なシーズンではなかった。シーズン開幕からリーグ戦は6試合勝ちなし。夏場は怪我人も多く、不安定な時期を過ごした。1年のなかでうまくいかないときは必ずある。そこでどれだけしぶとく戦って結果を残すことが大事と話す。

「サッカーはどんな相手でも負けることがあり得るけど、2013年は同じ相手に二度勝てなかったっていうのもある。だから、もう負けられないという状況で勝ちきる力がつけば、もっと上に行くことができると思う。夏場にも勝ったり負けたりの繰り返しの時期があった。いいときと悪いときがはっきりしてたよね。それだけなくせればねえ。来年の課題だと思う」

大久保自身も開幕からいいスタートを切ったわけではない。本人のコンディションは悪くなかったが、周りの生かし方、自分の生かされ方という点で少し戸惑いがあったそうだ。

「開幕前のキャンプと開幕当初は、これまで先発でやったことがなかった右サイドやったから。途中からポジションを変えて右サイドっていうのはあったけど、なんだろね。ボールのもらい方が違うし、相手から遠い左足でキープしなきゃとか、動き方で難しかったのはある。相手に中に絞られるから。そうされないように自分がちょっと中に入ったりとかしてたけど、感覚的にしっくりきてなかったかな」

ひとつのきっかけは、第2節の大分戦(△1-1)で加入後初ゴールを決めたことだという。この試合で大久保は後半スタートに右ワイドから1トップのような形にポジションチェンジし、田中裕介のクロスをトラップして反転、左足でゴールを決めて見せた。あの得点でひとつつかんだものがあったと大久保は語る。

「まず早い段階で点を取れたのが一番大きい。あの試合は前半右サイドやったけどすごく難しくて、後半FWに入って点を取って、いけるかもっていう感じがしたかな」

その後、チームは浮き沈みがあったが、大久保自身は前線に固定されてから持ち前の得点感覚を発揮。コンスタントに得点を積み重ねた。ハットトリックこそなかったが、リーグ戦の1試合2得点は7試合にものぼる。選手の間に「ヨシトに預ければ決めてくれる」という共通認識ができた。本人も得点を決めるごとに自信をつけ、プレーに余裕が出てきたようにも思える。

「勝たなきゃいけないっていう期待が大きいチームにきて、やりがいも大きいってのはある。そういった雰囲気のなかで勝てれば本物やから。勝ったときのうれしさも格別やしね」

GK30 新井章太

2013年の経験が来年への自信につながっていく

フロンターレでの加入1年目は、クラブにとって大きな財産となった。だが本人にとっても「まだまだやれる」という実感を持てたシーズンだった。だが、大久保のサッカー人生もまた順中満帆だったわけではない。

「フロンターレにくる前、年齢的に考えても、『俺はこのまま終わってしまうのかな…』という思いもあった。怪我も多かったし、試合に出てもカリカリしとったからね。本当にどん底やった。自分に自信を持てなかった」

2010年のワールドカップ南アフリカ大会では日の丸を背負い、すべての試合で先発出場を果たすなど奮闘したが、日本に戻って以降はずっと怪我に泣かされてきた。体のコンディションもそうだが、「メンタル面でもなかなか乗れなかった」と当時を振り返る。

「自分のなかでサッカーが楽しくなかった。サッカーのことを考えたくないから、携帯電話も持たずにいとこが住んでる島に出かけて帰らないで、サッカーがやりたくなったら戻るみたいなことが何回かあった。俺の持ってる力はここまでなんだ。それぐらいしかなかったんだ。これ以上のことはないんだろうな。もう終わるんじゃないかっていろいろ考えたりしてね。そんな感じやから、引退も早くなるんじゃないかって。もちろんフロンターレにくるときは今年がんばろうって思ってたけど、最後になるかもしれないっていう気持ちもどこかにあったよね」

この先コンディションやモチベーションを落としてバランスを崩し、サッカーが楽しくなくなる時期がくるかもしれない。だが大久保はフロンターレにきて新しい力を発揮し、結果を残せたことで希望を持つことができた。2013年の経験が彼をより大きくさせた。

「今年を体験したから、またできるってなるかなって思った。体力的にもこんなに試合に出たのははじめてやけど、まだ全然いけるやんって。怪我も少なかったし。だからこんだけ力を出せたけど、来年はもっと出せるんじゃないかってすごく感じる。まぁ、それは自分次第やけど」

大久保がここ一番という場面で力を発揮できるのは、いい意味で余力を残しながらチャンスを待つ。かといってサボっているだけではなく、ここは危ないというところではしっかり走る。

「攻撃的なチームやし、全部フルパワーじゃなくて、要領よくつかいわけてる。全部使ってたら大事なところで使えないから。大事な場面でパワーを使えるのが大きいのかな」

メンタル面でも最初の頃はイライラしながら「ボールをくれ!」とアピールする姿が目立っていた。だがチームが勝利、得点を積み重ねていくことで、そういう場面も少なくなっていった。シーズン終盤に至ってはいい意味で力が抜けていたように感じる。カッとなりイエローカードをもらってしまうことが多い大久保だが、今年は違っていた。それは体力とメンタルのコントロールがうまくいっていたからに他ならない。

大久保嘉人のプレースタイルは変わったのか

「いまやろうとしてるサッカーはすごく楽しい。セットプレーとか一発でポーンと取るだけじゃなくて、つないで崩して、それで誰でもいいから点が取れたら最高やね。そうやってみんなで取れると、みんなの自信のつき方が違う。『俺たちできるわ』ってなるし、チームとして次にもつながる」

2013年のチームはいい部分と悪い部分の両面が出たシーズンだったが、大久保個人としては充実した1年だった。相手が何人マークにこようが慌てることなく巧みにボールをキープし、ここぞという場面では勝負強さを発揮してシュートを決める。ここ数年は、どちらかといえばストライカーというよりは何でもできる選手というイメージが強かっただけに、「大久保ってこんな選手だっけ?」と感じた人もいるかもしれない。だが、彼自身は「なんも変わってない」と話す。

「チームが変われば選手の評価はまた違うから。プレー自体はむしろ神戸のときの方がいろいろやってたし、キープする時間ももっと長かった。相手が何人こようがかわさなきゃいけなかったし。まぁ選手の評価はチームが変わればまた違うから。あるとしたら周りが思い出させてくれたってこと。それは思う。みんなには本当に感謝しないと」

大久保はチームメイトたちを「みんな気が使える」と評している。大久保のいう気が使えるとは、周りが見えていて、ボールを渡して終わりではなく、そのまま次のコースに走ってくれることを指している。周りがディフェンスを引き連れてくれることによって、ドリブル突破、走っている味方へのパス、走った味方が空けてくれたスペースを使うなど、大久保自身のプレーの選択肢が増えたという。

「俺が思ってくれることをやってくれるからね。1人ひとりがサッカーを知ってる感じがする。みんなが止まらんからいいんですよ。止まるとチームにならない。みんながお膳立てをしてくれるから俺が取れるんやと思う」

確かに2013年の大久保の得点はこれといった形で決まっているわけではなく、さまざまなシチュエーションから生まれている。ミドルシュート、カウンター、セットプレー、ワンツーからの抜け出し。そのなかでも特筆すべきはペナルティエリア内での得点だ。正確にパスをつないで崩すサッカーを目指しているフロンターレのチームカラーからすればゴール前での得点が増えるのは当然といえば当然だが、人が密集している狭いエリアで当たり前のようにシュートを決めるのはそう簡単なことではない。

「単純にチャンスが多いから。決まるときは『これは大丈夫だ』って感覚があるけど、外すときは外すし。そこでしっかり決めれらたら自信になるし、逆に1対1で外したら燃えるしね」

大久保嘉人の得点はパターンではなく、ここぞという場面で、ここぞというシュートを決める形が多い印象を受ける。ゴールセンスというものは抽象的で本人にしかわからない感覚かもしれないが、一日にして生まれるものではなく基礎の積み重ねの賜物でもある。彼の得点感覚は30歳を超えてなお研ぎ澄まれている。

「前まではどうせこんやろって勝手に予測して走ってないことが多くて、ペナのなかでチャンスが多くても、なかなかその場所におることができなかったんですよ。俺、なんでいかんやったんかなって。でも、いまはボールがきたら間違いなく取れるところに走ってしまう。逆にこなくてもいいやってぐらいの感じですよ。ボールがこないと無駄走りになって体力を使ってしまうとか思いがちやけど、こんやったらこんでいい。ボールが出てくるか出てこないかはわからないけど、もしきたら入るわけやから」

期待とプレッシャーに打ち勝ってこそ

「2013年は、俺個人としてはめちゃくちゃいいシーズンだった。得点王を獲れたし、ACLにも出ることができる。ひさびさとかじゃなくて初めてやからね。本当にみんなに感謝しないと。俺が生き返ったのは、絶対に周りの選手とチームのスタイルのおかげでしょ。そこしかない。自分がやりたいサッカーがフロンターレにあるってこと。それですよ」

自分がやりたいサッカー。それはFCバルセロナのような前の選手にボールを預け、近い距離でパス&ゴーを繰り返しながらテンポよく前に進んでいくサッカーだ。無駄なプレーをそぎ落とし、いま欲しいタイミングのときにボールを預けてくれる。フロンターレのスタイルにフィットしてからは、純粋にサッカーを楽しみながらプレーしていたようにも思える。

「超うれしかった。これや、これがサッカーやってね。みんながボールを預けてくれるから、当然プレッシャーはかかる。だけど来年の方がもっとプレッシャーがあるからね。個人としてはひとつ結果を残せたわけで、周りは取るだろうって目で見るからね」

得点王を獲得したことで、2014年は大久保への注目がより高まるシーズンになる。だが、土壇場での勝負強さは2013年で証明済みだ。追い込まれた状況でこそ彼の真価が発揮される。むしろプレッシャーがかかっているときの方がいいのかもしれないと話す。

「たぶん俺、プレッシャーがないとダメですよ。楽勝だとか思っちゃうと自分がダメになる。流してたら力が出ないんだろうね。だからそういうプレッシャーがあった方が楽しみやし、そういう状態になったときの方が俺、強いからね」

チームは目標のひとつだった来シーズンのACL出場権を獲得。2014年は自分たちのサッカーを極めるという課題を持ちながら、新しいチャレンジができることになった。大久保自身もACLは初出場となる。

「2014年は相当きついスケジュールだろうけど、俺ははじめての経験やからそっちの方がいい。新鮮やもん。韓国のチームも中国のチームも激しそうやけど、そういう相手の方が燃えるし、面白い。楽しみやなあ。そういうチームに勝てたらまた自信になるし、Jリーグにもいい影響を与えるような大会にしたいね」

若くして日本代表デビューを果たし、ワールドカップに出場。クラブチームとしてはスペイン、ドイツといった世界のトップリーグでもまれてきた。大久保の国際経験はアジアの舞台でも生かされるだろう。

「2013年はとりあえずACLっていう目標を達成したわけやから、そうなったら優勝しかないでしょ。今年の戦いを見たら何をやればいいかはみんなわかってるし、どこがダメだったかもわかってる。みんなもここぞというところで安定した力が出せればいけると思ってるはずだしね」

プレッシャーを力に変える。

言葉にすれば簡単だが、実際にやるとなると相当難しいことのように思える。だが、大久保嘉人ならばやってのけるかもしれない。2013年はそんな可能性を感じさせる1年だった。

そして2014年へ。新シーズンも大胆さと繊細さを織り交ぜたプレーでスタジアムを沸かせ、あっと驚くようなゴールシーンを見せてくれるだろう。

「まだまだいけそうな気がする。間違いない。楽しみですよ」

ストライカーとしての本能を呼び覚ました男はニヤリと笑いながら、最後にこう話してくれた。

マッチデー

   

profile
[おおくぼ・よしと]

巧みなドリブルと得点力に長けたアタッカー。攻撃的なポジションであればどこでもプレーでき、派手な活躍だけではなく献身的に走ることもできる。日本のみならず欧米サッカーの厳しさを知る経験と得点感覚はチームに大きな影響を与えている。2013年シーズン得点王。

1982年6月9日
福岡県京都郡生まれ
ニックネーム:ヨシト

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