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SEASON 2015 / 
vol.03

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MF5/Komiyama,Takanobu

熱く、強く。

MF5/谷口彰悟選手

テキスト/竹中玲央奈(CSPark) 写真:大堀 優(オフィシャル)

text by Takenaka,Reona photo by Ohori,Suguru (Official)

これまで見てきた谷口彰悟の姿を思い起こしてみたのだが、その中でもとりわけ印象的なシーンが1つある。
それは、約2年前。彼が筑波大学蹴球部の主将として戦っていたときのことだ。
「“赤はないでしょうと思ったんですけど、審判に何を言っても判定は変わらないですし。“ここで赤がでちゃうか…と思いながら、ピッチの外に出ていましたね」
懐かしみながら、当時をこう振り返った。

2013年5月6日、味の素フィールド西が丘で行われた関東大学サッカーリーグ1部第6節の中央大学戦。前半38分にペナルティエリア内で相手FWを倒した谷口に対し、審判が笛を吹いた。「自分はノーファールだと思っていて。でも、”ピーッ”って笛が吹かれたので、そっちを見たら…赤でした」そのプレーは反則の基準すれすれの際どいものにも見えたし、PKと退場者の両方を与えるほど”悪質”なものではなかったと、強く断言できる。そして、反則を取られた側が審判へ激しく抗議に出てもおかしくないほどのものであった。

だが、その煽りをいの一番に受けた谷口は、審判への抗議の言葉を全く発することはなかった。判定に従い、冷静にキャプテンマークをチームメイトに渡して、悔しさと不満を押し殺しながら、ピッチを後にした。

「次の試合に出られないのは悔しいですけど、もう、切り替えるだけですね」試合後にも決して不満を露わにすることなく、苦笑いを見せながらこう口にしていた彼もまた、印象深い。

1つ1つのプレーも淡々とこなし、激しい指示を周りに送ることもなく、冷静にゲームをコントロールする。それが谷口の良さでもあることは間違いないのだが、どこかみなぎる闘志のようなものを感じない。そしてこの退場を見て、こういう思いが強くなった。

“彼には、”熱さ”が足りないのではないか”

「あまり、口数を多くして引っ張っていくタイプではないですね。プレーで見せる感じでした」幼いころから谷口の背中を追い続けてきたルーキーの車屋紳太郎も、こう語る。

そのとき感じたこの考えを直球に本人へぶつけてみると、「わかります」と即答し、こう続けてくれた。

「特に”気持ちを見せろ”みたいなことはなかったですし、全て、”技術”というものを重視していたので。”球際がっつりいけよ!”という声も出ていなかったですね。筑波の時は」
ある意味、自認のことでもあったようだ。だが、注目すべきは最後の言葉。”筑波の時は”である。

「だけど、そういう戦い方じゃプロではやっていけないというか…。周りのみんなが高いレベルにいるし、技術もある。なので、最終的には”気持ち”ではないけど、球際で絶対に負けないとか、1対1で絶対にやらせないとか、そういうところをもっと高めていかないと。軽いプレーをしてしまったら試合は終わってしまうので。それは去年、試合に出る前から気づいた部分だったんですけど、それを高められたということはありますね。そこはやっぱり、試合を経験したことが大きかったです」

激動の1年目で身につけたモノ

ルーキーとして川崎に入団した1年目の昨季、谷口は主にDFとして30試合に出場し、1得点を記録。出場時間数も大久保嘉人に次いでチーム2位という、申し分のない成績を残した。

「これだけずっと出続けられるとは思っていなかったし、最初は出られなくて色々考えてやっていたのはあったのだけど、比較的早い段階でチャンスをもらって。やったことのないポジションだったけど(注:プロ初出場は左SB)、自分のできることをしっかりやろうと。そういうところから入って、そこからずっと出させてもらいましたね。これ以上ない経験というか。1年目でACLもやったし、リーグ戦、ナビスコ、天皇杯と全部経験させてもらった。その中で、シーズンを通して高いパフォーマンスを出していかないといけないというのを、やりながら経験できたなと。今後に繋がるというか、そういう経験だったなと思います」

簡潔にルーキーイヤーをまとめてくれたが、確かに1年目で彼は多くの経験をしているなと、改めて感じさせられたものだ。未体験のポジションをこなし、リーグやナビスコカップの優勝争いを”主力”として体感。そして、アジアの舞台をも経験した。得られた経験値は、計り知れない。しかし、新たな体験が矢継ぎ早に訪れる中で手にしたものは、何も充実感ばかりではない。

「チームが失速したときに、悩みました。終盤ですね。ちょっと勝てなくて、負けが出始めて。ここからタイトルに向けて、ということで失速しだしたとき、”後ろがもっとしっかりしていれば”という思いは、見ている人もみんな思っていたと思う。それに、そこでしっかり出来なかったということで自信をなくしたというか。まだまだだなというような思いを抱えたまま、何試合もやっていました」

中心選手としてプレーをするとなると、そこには責任感が付随してくる。チーム内で求められるものも、サポーターの期待も、日を重ねるごとに大きくなる。しかし、自身の出来とチームの結果がそれらに比例しない時期も、やって来る。その状況に陥り、苦心した。

DF5/谷口彰悟選手

「いっそのことメンバーを変えてもらったほうが楽になるんじゃないかぐらいに思ったときもあった」

苦境に立ったその時の心境を、こう吐露する。だが、チームがなかなか勝てない状況でも、風間監督は谷口に全幅の信頼を寄せて、起用し続けた。

「その期待というか…それに答えたいという思いはあったんですけど、そこでうまくいかない。自分が試合に出ていいのだろうかという不安感もありましたし、そういう時期でした。“またやられてしまうのではないか”とか思うようになって…。あのときはネガティブな気持ちのほうが強かったですね」

 どんな形で敗戦を受けても試合後には真摯に取材に対応し、練習場でのファンサービスも笑顔でこなす。とにかく、”優しい”人間だ。たとえ自身が苦しんでいても、その心境や表情を露わにすることがないのは、それによって周囲に心配をさせないためではないかと、思う程に。決して苦しみ、悩んでいる姿や表情を表に出さないがゆえに、ここまで悩んだ時期があったという事実を聞いたときは、正直、驚きを隠せなかった。

 ただ、いつまでもその状況で悲観的になっているようでは光明が差すことがないのは、事実である。もちろん谷口自身もその点は重々承知しており、自らその状況を変えていこうと、解決策を模索した。

「自分一人で背負いすぎないというか。ディフェンスラインの真ん中をやっていたので、自分の責任が大きいものだと自分自身は思っていました。ただ、周りのみんなを動かさないと守ることはできないし、協力してもらわないとできない。だから、そこでしっかり周りを上手く使おうというか。声を出して、指示をして。闘争心を出してやってみようというところですね。ちょっとそこで掴んだというか。最後の2節はそうでしたね。そこでふっきれてプレーをしてみたら、意外といい感じで90分集中してやれていました。そういう風に、声を出したり、周りを動かすということを覚えればよくなるのかな?と。そういうことを掴んだ試合ですかね。それまではあまり自分から言ってこなかったし、正直、自分のことで精一杯だったというのはありました」

闘争心。彼が発したこの言葉にピンと来た。冒頭でも話題にした通りだが、大学時代の彼を見ていて”足りない”と感じたものだ。そして、自らも欠けていると感じていた1つの要素をである。これが、主力として戦ったシーズンで様々なことを経験したことにより、自らの血となり肉となったのである。

「やっぱり…こういう言い方をすると良くないかもしれないですけど、(プロは)生活がかかっている訳で。1試合1試合が勝負というか、1プレー1プレーが勝負の世界なので。やっぱりそこは、ぶつかり合いじゃないですけど、そういう世界なんだな、というのを味わえましたよね。自分もそのフィールドでやらないとやっていけないなと感じましたし、その中で、技術を魅せていかないといけないんだなと。戦うためのベースが一個上がったというか、そういう感じはあります」

風間監督は”モチベーション”について選手に言及することがほとんどない。それについて谷口はこう分析する。「監督の中では、モチベーションを高く保つということは当たり前なんだと思います。だから、改めてそれを言わない。”戦える人がいる”という前提で全てを話すので。だから、そこは個人で、自分自身でやっていかないといけない」

谷口はプロ入後すぐにこの”前提”に立つことはできなかった。しかし、先にも述べたように、様々な境遇を経たことによって「大学時代から、また一段階上のところでやれるようになった」のである。

「後ろをやっている分、キレイなだけじゃ絶対に守れないので。泥臭いところを見せるのもそうだし、体だったらどこにでも当てて守ってやるくらいの気持ちを持っていかないとやっていけないとは思っています」

2年目の挑戦へ

1年目にブレイクを果たした選手にとって、2年目のシーズンほど重要なものはない。スポーツの世界には、ルーキーイヤーの翌年に成績が落ちることを表す”2年目のジンクス”なんていう言葉もある。1年目で成功を収めた谷口にとっても例外なく、今季は勝負の年だ。

「去年は大卒1年目のルーキーということで肩書が付いていたし、“その割には”という見方も絶対にどこかであったと思います。ただ今年はそういうのもないし、去年あれだけ試合に絡ませてもらって、出させてもらって。見る人の要求とか期待というのもすごく大きくなっているんじゃないかなと思っている。それに応えたいですね」ただ応えるだけではなくて、期待をいい意味で裏切るというか、予想を超えてやりたいという思いがあるので。去年以上に勝負の年かなとは考えています」

経験も積み重ね、苦境の時期も過ごし、自らに欠けているものを補完することが出来た2014年シーズンを経て、彼が一回りも二回りも成長出来たことは言うまでもない。その証として、背番号の変更が挙げられる。ルーキーイヤーに与えられた15番から、昨季までジェシが背負っていた5番へと”昇格”した。

「5番は、守備の要がつけている印象が強いです。そういう番号を自分がつけるとなれば恥ずかしいプレーはできないし、チームの中心で存在感のある選手にならなければいけないなと改めて思いました。期待に応えないとですね」

では、何を持ってその”期待”に応えることになるのだろうか。そういう観点で考えたときに1つ浮かぶのが大久保嘉人の発していた何気ない一言だ。

「彰悟は、(代表に)入れる素質はあるよ」

日本代表に選ばれることは、日の丸を背負い日本の代表として戦う以前に、川崎フロンターレというチームを代表するということでもある。それが実現すれば、数多寄せられる期待に応えたということになるのではないだろうか。

「周りには代表を目指して頑張って、とか言われるんですけど。まだまだ代表で戦えるレベルではないなと思っている。もっともっと色んなことを学んでやっていかないと入れない。それで入っても、何もできないで終わっちゃうのかな。CBとして、強さや判断のところでまだまだ迷いがあるというか。代表の試合を見ていたりしても、“そういう感じなのか”とか”そこに行くんだ"とか思うところは多くあるので、まだ学ぶところは多いと思います」

非常に謙虚な反応である。だが、”まだ代表に入れるレベルではない”という考えが必ずしも”代表を目指さない”という結論に直結するわけではない。

「チームの成績に貢献して、代表に入る。そのクラスにはならないとダメかなと思っています。例えば僚太はオリンピック代表があるけど、自分が目指すところはもうA代表しか無いので。そこはJリーガーである以上は目指さなければいけない場所でもある。そこに入って初めてチームの顔になれるというのは自分の中でありますね」

期待に応えるということは、チームの顔となること。そのためには、国を背負って戦うということを経験しなければいけない。そういう思いは常に強く持っており、2年目の谷口が目指すところはここにあると言える。

「タイトルをとるためにしっかりと後ろを締めたいなと。フロンターレは攻撃的というのがあるので、なかなか守備のところで注目されたりはしない。だけど、そこで結果を出すことで”後ろに彰悟がいるからだな”と。そういう見方をしてくれるようなプレーをしていけば、(代表に)近づくのかなとは常に考えています。ただ、始まってみなきゃわからないですけど。でも、それでも、その自信というのは小さいながらも持っています。そこは、試合をやっていく中でその自信を大きくしていきたいですよね」

謙虚な姿勢の奥底に、ふつふつと煮えたぎるものが、伝わってきた。それは、激動のプロ1年目を経たことによって彼が身につけた部分なのだろう。

“タニグチショーゴ たたかえショーゴ
熱いハートを 燃やせよショーゴ”

これは谷口のチャントの歌詞なのだが、 “1年目の彼の成長にマッチしているな”と思った。偶然にすぎないが、この歌詞も彼を突き動かす一手になったのではないだろうか?

今季は、チームの初タイトル奪取、そして自身のステップアップに向けて、さらに上のステージを目指す戦いとなる。決して簡単な道のりではないが、彼ならそれを実現してくれるだろう。そういう確信が、ある。

「代表クラスのFWがいるとかそういうのがあると燃えるものがあるというか。絶対にやらせたくないというような気持ちにもなりましたね。やっていて楽しい。そういう気持ちのときは自分のプレーもいい印象がありました。逆に燃えてきちゃうタイプなのかなと」

熱く、強く戦う谷口彰悟にとっての”勝負”の2年目が、幕を開ける。

マッチデー

   

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[たにぐち・しょうご]

確かな技術とボール奪取力が特徴の守備的MF。昨シーズンはプロ1年目ながら序盤戦でレギュラーポジションを獲得。中盤だけではなくサイドバックやストッパーとフル稼働し、チームの守備陣に新しい風を吹き込んだ。2015年から背番号5を受け継ぎ、次世代を担うディフェンスリーダーとして大きな期待が寄せられている。

1991年7月15日/熊本県、
熊本市生まれ
ニックネーム:ショーゴ

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