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  • ピックアッププレイヤー 2016-vol.18 / 大久保 嘉人選手

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SEASON 2016 / 
vol.18

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Okubo,Yoshito

LAST MESSAGE

FW13/Okubo,Yoshito

テキスト/原田大輔 写真:大堀 優(オフィシャル)

text by Harada,Daisuke photo by Ohori,Suguru (Official)

 その日、大久保嘉人は確固たる決意を持ってピッチに立っていた。

「自分自身のプレーにチームへのメッセージを込めたんですよ。なぜなら、それまではみんな、そういうプレーができていたから」

 2016年11月3日、J1リーグ2ndステージ最終節、ホームの等々力陸上競技場で行われたガンバ大阪との一戦だった。長谷川竜也との2トップで出場した大久保だが、そのプレーは、ストライカーというよりも、まるでゲームメイカーのようだった。

「オレがFWとしてプレーしているときには、こういうプレーをやってほしかったんだぞっていうのを見せてやろうと思ってね。だから常に動いてパスを受けて、前にボールをつないだ。『フロンターレのサッカーってこういうサッカーだったでしょ』ってことを思い出してもらおうと思ったんだよね」

 ピッチ中央まで降りてきた大久保はパスを受けると、すぐにボールをはたき、前方のスペースへと走り込む。そしてリターンをもらうと、さらに前へと展開した。

「オレは何が嫌かって、前に行けるのに後ろに下げるのが嫌なんですよ。チームメイトには今シーズン、それをずっと言い続けてきた。相手が守備ブロックを組んでいて、あまりにも前にボールを出すスペースがないときには、一旦ボールを下げることの必要性は、オレも分かってますよ。でも、たとえボールを下げたとしても、次のプレーでは前にボールを運べるように工夫してほしい。ボールを下げるプレーも、その次には前に出すための伏線であってほしいんだよね」

 試合は前半に2点を奪うも、大久保がFWとしてのプレーに専念するようになった後半に3失点すると、逆転負けを喫した。これによりフロンターレは年間2位に終わり、続くチャンピオンシップでは準決勝に回ることになった。

 大久保は「ガンバ戦の“前半”は完璧なゲーム運びでしたよね」と、苦笑いを浮かべる。

「このチームの選手たちはうまいし、気の利いたプレーができる。だから、みんな、それができていたし、今もやればできるはずなんですよね」

 奇しくもチームの大黒柱である中村憲剛が「あの試合の特に前半は、久々にうちって強いなって感じたんです。前半だけで3、4点は取れていたような展開でしたからね」と話したのも、偶然の一致ではないだろう。

 大久保がガンバ大阪戦で自らのプレーに込めたメッセージを深く知るには、どうやら彼がフロンターレに加入した2013年まで時間を巻き戻す必要があるようだ。

 

FW13/Okubo,Yoshito

 背水の陣──大久保がフロンターレに加入したときの状況を言い表せば、まさにそんな感じだろう。前所属先となるヴィッセル神戸では2012年、わずか4得点に終わっていた。

「得点が奪えず、このままだったら自分は選手として終わると思っていた。だから、いっそのこと思いっ切り環境を変えて、韓国のKリーグに挑戦しようとしていたくらいだからね。そんなときにフロンターレからオファーをもらった。フロンターレといえば、日本一攻撃的なチームというイメージがあったから、そこに行って得点が奪えなければ、これはもうオレの実力だなって思える。そこで得点が奪えれば、自分に問題があったわけではなく環境だったんだと思うこともできる。だから、オレはここ(フロンターレ)で勝負しなければならないって思ったよね」

 今やあまりにもストライカーとしての印象が強すぎて、忘れている人も多いことだろう。フロンターレに加入する前の大久保は、FWというよりもMFだった。

「神戸では中盤でプレーすることが多くなっていましたからね。それこそ今のフロンターレみたいな3トップの左とかではなく、純粋な中盤の左。DFが3バックのときには、ウイングバックみたいなポジションでもプレーしていたくらいだから。そりゃ、ゴールは遠いっすよね(笑)」

 ヴィッセル神戸時代にMFを務めたことに「後悔とかはない。むしろプレーの幅が広がった」と話せるのは、彼の潔さであり、魅力でもある。ただ、だからフロンターレに加入したときも、当初は1トップではなく、3トップの右で起用されていた。

「フロンターレに来たときも、当初は中盤の選手として見られていた。実際、キャンプでもオレ、真ん中じゃなくて、右でしたからね。当初、中央はパトリックで、途中からユウ(小林悠)が入るみたいな感じで、オレはずっと右サイドだった。でも、自分は得点を決めなければ、評価されない選手だということは分かっていた。幸い風間(八宏)さんは、どこのポジションであろうが得点は取れるだろうという考え方をしてくれていたので、真ん中だろうが右だろうが、とにかくシュートを打ってやろうと思っていましたけどね」

 ゲームメイカーでもなければチャンスメイカーでもない。ストライカーとして、点取り屋として、もう一度、自分自身を輝かせたい。フロンターレに来た大久保は、そのサッカーに触れて、さらに決意を固めていった。

「これだなって思いましたよね。近い距離でパスがポンポンつながっていく。自分がパスを出してスルスルっと上がっていったら、DFの前にパスを出してくれる。だから、どんどん前に行くことができた。今までは、自分がパスを出して走っても、サイドとか、全然違うところにボールが行っちゃってたんですよ。だから、リターンを受けることがほとんどなかった。でも、フロンターレでは、出してほしいところにボールをくれるから、テンポというかリズムが作れる。受けて出して、受けて出して、この繰り返しで中央を突破することができる。相手DFとの駆け引きを楽しんでみようかなという遊び心って言うんですかね。ボールを『取りに来い!取りに来い!』って、DFを引きつけてからパスを出す。もしくは、ミドルシュートを『打つぞ!打つぞ!』というプレーもできる。これは楽しいぞって思ったよね」

 その中で、自分自身もストライカーとしての嗅覚を呼び覚ます必要があった。長らくMFを担ってきたことで、彼はシュートではなく、パスを選択してしまう癖が染みついていたのだ。

「最初にパスを考える習慣がついていて、名前を呼ばれると、どうしてもそっちを見てしまう癖があった。だから、チームメイトには、名前を呼ばなくても見えているから、もう黙っててくれ、黙って走ってくれってお願いした」

 条件反射かと聞けば、「そうなんだろうね」と頷く。自らがシュートを打てる状況でも、名前を呼ばれればパスを出すつもりがなくとも、そちらを気にしてしまう自分がいた。そのため、まだホテル暮らしをしていた加入当初、悩んでいた大久保は、部屋にあったメモ帳に思わずこう書き記していた。

「名前を呼ばれてもパスを出すな!」
「自信を持ってシュートを打て!」

 自分自身への期待とストライカーへの執着──その思いが報われたのが、2013年3月9日のJ1第2節、大分トリニータ戦だった。

「あれですべてが変わったよね」

 フロンターレでの軌跡を振り返るとき、いつだって大久保はそのゴールを思い出す。今は更地になってしまった国立競技場で迎えた後半8分、田中裕介からの右クロスに走り込むと、ペナルティーエリア中央でトラップして華麗に反転するとシュートを決めた。

「あの試合も最初はサイドだった。後半から初めて1トップをやったんです。それまで練習でもやったことがなかったくらいだったからね。当時は、いかに早く得点を取れるかしか考えてなかった。あの得点がなければ、その後のチームの勝利もないし、自分が得点王になることもなかった。きっと、大久保はもう得点が取れない選手って言われていただろうね。だから、本当にあのゴールはオレにとってものすごい大きい。これでいけるって思ったし、自信にもなった」

 大久保はフロンターレで、ストライカーとしての自分を取り戻していった。

「まだ、オレは変わってなかったんだなって。ストライカーだったということを思い出したよね」

 ゴールを決める使命感とゴールを決める喜びを思い出させてくれたのが、“ここ”フロンターレだったのだ。

「いつからか、2試合得点できないだけで、『最近、ゴールしてないですね』って言われるようになった。たった、2試合ですよ(苦笑)。周囲の目も肥えるし、自分へのハードルも上がる。その期待に応えるには、連続でゴールを決めるしかないって思った。自分が得点すれば、試合にも勝てるし、チームも勢いに乗るということは分かっていたからね」

 プレッシャーがなかったかと言えば嘘になる。不安に苛まれなかったかと言えば、それも嘘になる。だから、大久保は重圧を打ち消すために、ひたすら麻生グラウンドでシュート練習を繰り返した。

「試合が近づくにつれて不安になるじゃないですか。次の試合で、点取れるかなって。でも、シュート練習をしとったら、不安がなくなる。あっ、いけるかもってなってくる。何より自信がつくんですよね。得点できる感覚を養える。その自信があるから、試合で(シュートを)1本外そうとも2本外そうとも、『オレにくれ。次は決めるから』って言える。その自信を培うには、もうシュート練習をするしかないんです」

 ピッチでは強気な姿勢しか見せない大久保の口から「不安」という言葉が出てくることに少々違和感を覚えるが、だからこそ親近感も沸いてくる。

「実はPKを蹴るときも、ボールを取りに行きながら、今日は誰かに譲ろうかなって思うときが結構、あるんですよね。だって、オレ、PKを蹴るとき、外すことしか考えてないから。決まればラッキーだし、自分がヒーローになれることも分かってる。でも、その一方で、キャッチされるかなってことばっかり考えてる。結局、誰かに譲ったことはないんやけどね(笑)。でも、小さいときから、常に不安しかなかった。見ている人には、自信満々に見えるのかもしれないけど、実は違う。プレーで弱さは見せられないですよ。恥ずかしいし。それに不安がってプレーしていたら判断も遅れるし、消極的になる。だからこその、やっぱり練習なんですよ」

 今や彼の特徴ともいえるミドルシュートも、フロンターレに来てから、己の武器のひとつへと昇華させたものである。

「ミドルは大きい。それがあるから、今やプレーのファーストチョイスが常にシュートになりましたからね。トラップもシュートに持っていけるような置き方をするようになった。シュートコースが空いていればシュートを打つし、DFがコースを切ってきたら、パスもできるし、ドリブルで向かって行くこともできますからね」

 そして、“ここ”フロンターレでエースとなった大久保は、3年連続でJリーグ得点王に輝いた。

「以前ね。得点王になった人たちを『いいなぁ』って思って見ていて、自分も現役のうちに1度でいいから得点王を獲りたいなって思っていたんだよね。まさか、その自分が、しかも3年連続で得点王になれるとは思っていなかったから、ビックリですよ。それもこれもプレッシャーに打ち勝ってきたからかなって思う。ゴールを決めることで、オレは少しずつ自信をつけてきたんです」

 だからこそ、である。フロンターレでサッカーの楽しさを思い出し、フロンターレでストライカーである自分を呼び覚ましたからこその思いがある。

「今シーズンのチームは、確かに取りこぼしが少なくなった。今までならば負けていた試合を引き分けにしたり、勝ちにすることができたので、そこは成長したと思う。ただ、その一方で、今シーズンは劇的な勝利が多かったですよね。今までのように、DFの裏を狙うパスや中央を崩すサッカーが普通にできていれば、ギリギリで勝つことなく、2-0、3-0で勝てた試合もあったはず。それがミスを恐れて、中ではなくサイドにサイドに流れていってしまうから、なかなか得点が奪えなくて、結果的に劇的な展開が増えてしまったように思えるんです」

 それはこのチームで数多くのゴールを決めてきた彼だからこそ分かる“気づき”だった。

「オレの今シーズンの得点パターンに、今のフロンターレのサッカーが象徴されている」

 2016年のリーグ戦で大久保が挙げた15得点を振り返れば、PKが4得点、ヘディングが5得点、利き足である右足が6得点となる。右足で奪った6得点のうち3得点がダイレクトだったことを加味すると、実に15得点中12得点がワンタッチによるゴールということになる。

「本来、オレはワンタッチゴーラーじゃない。パスでリズムを作ってからのミドルシュートだったり、ゴール前に切り込んでからのシュートだったりを得意としていた。それが今シーズンはサイドにボールが流れる機会が増えたから、クロスに合わせる必要があった。だから、自分自身も工夫してサイドからのクロスに合わせる形で得点を狙うようになった。オレ自身、Jリーグでも決して身長の大きい選手じゃない。サイドからの攻撃を重視するならば、身長の大きい選手を起用すればいいですからね。でも、フロンターレはそういうチームじゃない。だから……」

 今シーズン、大久保がピッチでずっと叫んでいたのは、本来のフロンターレが目指していたサッカーであり、選手たちが培ってきたプレーを取り戻させようとしていたからだった。

「絶対に(パスコースが)見えているはずなんだけど、出せないって思ったら、みんな、やめてしまうんですよね。あそこにパスを出せれば、得点が生れそうだなって思っているならば、DFを振り切るとか、工夫すればいいのに。それをオレはもったいないってずっと思っていたし、言い続けてきた。このチームの選手たちは、もともとうまい。だから、あとは、それをやるか、やらないかだけ。大事な試合こそ大胆さが必要だし、積極的にやったほうがいい。そこで、縮こまってしまう選手が多かった。それによって一か八かのパスは出せなくなるから、必然的にボールを下げる、もしくはサイドに送る機会が多くなる。たとえば、DFの裏を狙ったパスを出して、ゴールラインを割ったとしても、失点するわけじゃない。そこから、もう一度、チームとして11人で守ればいいわけだし。それに一度、裏を狙ったことで、相手にジャブを打ったことにもなりますよね。それでDFが裏を警戒してくれば、今度は足もとでボールをもらえるようになる。だからこそのジャブなんです。決め手になるパンチばっかりを狙うのではなくて、大きな一発のために伏線を張らないと。だからオレは、前を意識してチャレンジしたプレーで、誰かがミスをしたとしても、決して怒ることはない。嫌なのは前に行けるのに後ろに下げることなんです」

 冒頭で語ったガンバ大阪戦のプレーに彼が込めたメッセージはそうした思いだった。

 迎えたチャンピオンシップ準決勝では、鹿島アントラーズに0-1で敗れ、またしてもフロンターレはタイトルを獲得する好機を逃した。試合終了の笛が鳴ると、大久保はピッチにうずくまり、顔を上げることもできずに、ただただ泣いた。

「すべてを懸けてましたからね。試合で泣いたのはいつ以来だろう。フロンターレに来て1年目に得点王を獲って、インタビューで泣いたのは、オヤジが亡くなったこともあったからで……。試合に負けて泣いたのは、たぶん……南アフリカワールドカップのとき以来ですかね……試合が終わった瞬間は、悔しいという感情も何も沸いてこなくて、ただただ、『終わった……』としか思えなかった。それだけ。他のことは何も考えられなかった。本当に立てなかったよね。でも、それくらいすべてを懸けていたってことなんです」

 4年間を過ごしたフロンターレを去ることに決めた理由を聞けば、澱むことなくこう答えた。

「葛藤はありましたよ。そのことは奥さんにしか相談していなかったんですけど、一度、『行こうかな(移籍しようかな)って思ってるんだよね』って言ったら、『そうなんだ』って感じで返されて。その後は、奥さんに言うのも怖くなって、言えなかったね。オレの気持ちは分かっていたと思うんですけど、オレも奥さんが残ってほしいと思っていたことも分かっていたのでね。だから後日、決断したと言ったときには、ずっと泣いてましたね……。あの涙はどんな涙だったんですかね。今でもそれは聞けないですね」

 時折、寂しそうな表情を浮かべるようにも見えるが、そこにはストライカーらしい強い決意と意思が漲っている。

「正直、フロンターレにはいいイメージしかない。だから、いいイメージのまま終わりたい。きっと、ここにいればアンパイなのかもしれない。でも、そんなの面白くないし、オレらしくない。この年でオファーが来るなんてありがたいことだし、ストライカーとしてもう一度、チャレンジしたい。そう思えたのもここでの4年間があったからこそですよね」

 最後に、自身がプレーに込めたメッセージはチームメイトに、後輩たちに届いたのかと聞けば、即答した。

「伝わったんじゃないですかね」

 だから……と言葉は続く。

「絶対に天皇杯を獲りたい。置き土産という気持ちと集大成という気持ちもある。もう悔し涙は流したくない。最後は……みんなで喜びたい。やってみないと分からないですけど、そこへの自信は持っています」

 そして……とさらに言葉は続いた。

「今シーズンの得点の話なんですけど、劇的なゴールのことしか思い出せないんですよ。特に今季はザ・FWみたいな得点ばっかりだったし。でもね。オレの理想は、中盤でパスを回して、自分も途中で絡んで、最後のところではオレが後ろから走り込んで、どーんって決めるゴールが好きなんすよ。自分の形でゴールを決めて、優勝して、マジでうれし泣きしたいんですよね」

 それこそが、まさに、彼が“ここ”で培ってきた“フロンターレ”らしいゴールである。

   

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[おおくぼ・よしと]

Jリーグ3年連続得点王を獲得した日本を代表するゴールハンター。抜群のゴールへの嗅覚で決定機に顔を出す。体のキレ、攻撃にタメを作るボールキープ、意表を突くドリブル突破、強烈なシュートとすべてにおいてハイレベルだが、一番の魅力はゴールに向かう強い意志。4年連続得点王を目指し、今シーズンも「川崎のヨシト」らしいプレーを見せてもらいたい。

1982年6月9日/福岡県
京都郡生まれ
ニックネーム:ヨシト

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