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2004/vol.08
3月13日、J2リーグ開幕──。
試合前、ロッカールームから出てきた町田は、立ち止まって「はぁ、緊張する…」と呟いた。その表情は、固く強張っていた。しばらくして、自分を落ち着かせるようにゆっくり歩いてロッカールームへと戻っていった。
「なんでかわかんないけど、すごい緊張してましたね。開幕戦って大事だし独特の緊張感があるじゃないですか。スタートで転ぶとちょっと雰囲気も影響するし。大事だって思ったんですよね」
町田忠道は、こうしてプロ入り5年目にして3チーム目となる川崎フロンターレで新たなスタートを切った。
「びっくりして、頭が真っ白になっちゃいました」
柏レイソルでの3年目のシーズンが終わり、契約更改についた席でのことだった。Jクラブは、11月30日までに翌年も所属選手と契約を結ぶ意志があるかどうかを通達する決まりがある。契約の意志がある場合は金額提示があるが、意志がないことを告げられ「0円」提示を受けた選手は、移籍先を探さねばならない。町田は、後者だった。
「うわぁって感じで衝撃でした。なにを言われているか頭に入らなかった。プロに入って1年目にはじめて契約書を見たとき思ったんです。いつか、俺もそういう日が来るんだなぁって。でも、もっと遠い先の未来のことだと思ってたんですよね」
町田の他にも8人が戦力外通告を受け、そのうち数人は食事に集まった。でも、町田はひとりで家に帰った。
「誰とも喋る気にならなくて家にひとりでいたんですけど、なかなか寝つけなくて。相談するときもあるけど、あんまりそういうのを人にしゃべるのが好きじゃなくて…。1日目は、まず自分のなかで消化したかったんです。まずは自分で受け止めて、ちょっと落ち着いてから人に話したいっていうか。ふと、もし家族とかいたらどうしてたかなぁって考えたりしましたね」
2000年に習志野高校から柏レイソルに加入した町田は、U-18、U-19日本代表に選ばれている選手だったが、チームではサテライトからのスタートだった。
「最初のキャンプのとき、練習試合でけっこう点とって手応えがあったんです。プレマッチでも出してもらって点とってこの調子なら行けるなぁって思ってたんですけど、いざ開幕したら全然メンバーに入らなくて…」
チャンスが訪れたのは2年目。7月に就任したペリマン監督に起用されスタメンで初出場を飾ったのは、9月22日セカンドステージ第6節対ヴィッセル神戸戦のことだった。
「緊張感はなくて、監督も信頼してくれてたしすごい自信があったんですよ。プレーに迷いがなかった」という町田は、渡辺光輝(現ガンバ大阪)が右サイドから放ったボールをキーパーがキャッチしようとする寸前に頭で触れ、記念すべき初ゴールも決めた。だが、勝負の年となった3年目はシーズン途中で腰を痛めて離脱してしまい、結局その年でレイソルを離れることになった。
翌年、京都パープルサンガに新天地を求めた町田だったが、初めての土地での生活になかなか慣れず、苦労も多かったという。それでも14試合に出場して4ゴールをあげている。ヴェルディ戦の2ゴール、鹿島戦、そして相当気合いが入っていたという古巣・柏戦でも決めた。だが、待っていたのは2度目の戦力外通告だった。
JリーグにはJ1、J2合わせて約800名の選手がいるが、約150人のJリーガーが戦力外通告を受ける現実がある。そのうちJリーグから登録抹消となる選手は約100名にものぼり、その平均年齢は約26歳とひじょうに若い。そこで、Jリーグと選手協会の合同運営で、2002年より自由契約になった選手たちが次の移籍先を探すための救済措置として、各チームのスカウティングと選手を集めた「合同トライアウト」の実施をはじめた。
2003年12月9日、寒風が吹きすさぶグラウンドに町田は立った。1年前、合同トライアウトの初回に参加している町田にとって、この日は2年連続2度目の参加だった。選手たちは、紅白戦を終えるとスタンドに並ぶクラブ関係者に向かってマイクでひとことアピールをする。「なにを言ったか覚えていない」という町田だが、独特な雰囲気と、凍えるような寒い日だったことは覚えているという。
結果的に京都での在籍は1年間だったが、サポーターの声援は温かく、町田の戦力外通告撤回を求める署名運動もあったと聞く。今季、京都戦での選手紹介で大きな拍手が送られるのもその証だろう。
「懐かしかったし、うれしかったです」
埼玉県本庄市に生まれ育った町田は、とにかくサッカーが大好きでサッカーのことばかり考えている少年だった。中学ではクラブチームである「本庄ジェットストリーム」に入り、学校から飛んで帰って練習に通うのが楽しくてしかたなかった。高校は、中学の選抜で強さを目の当たりにした千葉県の高校に行いきたいと願い、推薦枠ではなく実技と試験を受けて習志野高校に進学した。プロを意識するようになったのは、高校2年も終わり頃というから、ただただ純粋にサッカーがうまくなりたいという気持ちだけが心を占めていた。
サッカーで一番うれしかったことは?
「高校3年の国体優勝です。いいチームだったし、嬉しかったですね」とすぐに答えが返ってくる。プロ入りして以降のことについて答えるときに、考え込む時間が長いこととは対照的に。
職業を失うかもしれないという岐路に立った2度の戦力外通告と移籍の経験は、町田のサッカーに対する考え方を一変させた。
「かなり変わったと思いますね。サッカーは、仕事なんだなって」
今年のシーズン前のオフには準指導員講習会にも参加した。22歳という年齢は、46名の全参加者のうち下から数えて2番目の若さである。
「資格をとっといたほうがいいのかなって思って。常に足元を見つつ先のことも考えるようになりました」
こうした経験は、今振り返ってみてよかったことだと思えるか?と問うと、「うーん。どうですかねぇ。よかったのかなぁ」と首を捻り、しばらく沈黙が続いた。
「どうだろう。もうちょっとだけ先でもよかったのかもしれないです。あと、2、3年ぐらい気づかなくても…」
6月6日、第16節対大宮戦は、一進一退の攻防が続いていた。1対1の同点で迎えた終了間際の89分、箕輪からのロングフィードが相手選手に渡り、そのこぼれ球がマルクスへ。右後方から走りこむ中村憲剛が「マルクス!」と呼ぶ声が伝わり、味方選手が視界に入ったマルクスは一瞬の判断でシュートではなく「素晴らしいアイディア」(関塚監督が)となるパスを選択した。
町田は、焦っていた。裏へ、裏へとタイミングをみて抜け出す動きを試みていたが、ジュニーニョとポジショニングが重なってしまう場面が多く、自分のいるべき場所を探していた。味方に疲労が蓄積する時間帯に入った自分には、流れを壊さず、守備の面で貢献しつつ、チャンスを見つけて上がっていくことが求められている。とにかくリズムに乗ろうと必死だった。
マルクスからふわりとボールが放たれたとき、町田はトラップのタイミングを計っていた。だが、後ろから走ってくる中村憲剛の足音が、相手DFが迫っているそれと聞こえ、とっさに「触っとこう」とダイレクトで右足に当て、そのままボールはゴールに吸い込まれた。劇的な逆転ゴールに町田はチームメイトの祝福を受けて喜びを爆発させた。
試合後、「よかったぁ! それまで(の時間帯)はマジでやばかったから」とホッとした表情をみせた。そして、「短い時間でアピールするのは難しい。自分の形はあるんですけど、それは俺がひとりでやろうとしても無理だしチームの流れっていうのがあるし…」と抱えるジレンマについて話し始めた。
関塚監督は大宮戦で「裏に抜け出す強さに賭けて」町田を後半途中から投入した。それが誰の目にも映る町田のプレースタイルだ。本人がこだわる「自分らしいプレー」「自分の形」もそこにある。「試合に出て点を取りたい」とは誰もが願うこと。途中出場すれば、限られた時間で自分のよさを出そう、と力が入る。ただ、サッカーが11人でやるスポーツであるならば、チームプレーのなかで、自分をいかに活かすか、ということになる。その境界線で町田はもがいているようだ。
関塚監督は、次のように町田について話してくれた。
「町田はポテンシャルが高いし、自分のよさというものを、すごく持っている選手です。彼は受けたボールをワンタッチではたいて前に出て行くことが好きなタイプ。ただ、レギュラーを張るためには、試合のなかで攻撃、守備両方においてチームプレーに徹する時間帯もあって、そのなかで自分の持ち味を出すことが必要なんです。彼自身、そのことを理解しているし使い分けができるようになりましたね。フォワードというのは、点をとってチームを勝たせてくれる一番近いところにいるポジションなんです。自信もってチームメイトにもっと声を出して要求していくことも大事ですね」
8月25日、町田は対京都戦で久しぶりにピッチに立った。スペースを利用し身体を張ってボールを奪いにいき、チャンスをみてはゴール前で積極的にシュートを放った。
「90分間だったらもたないだろうっていうぐらい、ハイペースでやりました。きょうはポジションもかぶらなかったし、こういう動きやプレーを続けていきたい。でも、点は取りたかったなぁ!」
嗅覚を研ぎ澄ませて、ここ、というタイミングで自分を最大限に活かす──。そのために与えられた時間に町田は全力を注ぐ。
柏レイソル、京都パープルサンガを経て今季より川崎フロンターレに加入。1981年5月23日生まれ、埼玉県出身。177cm、70kg。
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