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2003/vol.09
10月4日、2万人を包んだホーム等々力で新潟に圧勝したフロンターレ。闘将・アウグストはロッカールームに引き上げる時、「やったー。やったー。やったー!!」と喜びを爆発させた。
その1ヵ月前、9月3日に新潟に敗れた後、アウグストが呼びかけて選手だけでミーティングを開いたという。
「下を向いている暇はないからね。昇格を目指すチームは、倒れても大きい壁にぶちあたっても、どんなことがあってもあきらめちゃいけない、と伝えたかったんだ。負けることもある。でも、あきらめないんだって」
アウグスト自身、相当悔しい思いをした。10月4日を迎える数日前に、こう誓っていた。
「もう、次は絶対に勝つ!! 頭からスライディングしてでも、どんなことをしてでも勝つんだ」
ブラジルの首都ブラジリア出身のアウグストは、11人兄弟という大家族のなかで育った。多くのブラジル人と同じように幼い頃から、兄弟でストリートサッカーに夢中になった。「テストを受けないか」と誘いを受けて、ガマという地元のクラブに入ったのは17歳の時だった。
それ以前は、近所の草サッカーチームに入っており、近くの町のチームと試合をする以外は、兄が勤める役所でアルバイトをする生活を送っていた。
「子どもの頃からプロになりたいという気持ちはあったけど、ガマに通うのは少し遠いし難しいかなぁと思っていた。僕は、ずっと草サッカーをやっていたから、フィジカルを鍛えることも毎日練習をすることも17歳でチームに入って初めて経験することだった」
アウグストは、現在カタールのチームに9年在籍している同じくプロサッカー選手になった弟とふたりで、片道30分かけて歩いてグラウンドと家を往復した。
「歩くのは、いいトレーニングだったよ。弟とふたりで遊びながら通っていたし。入った頃は、トップの試合だけじゃなくて、サテライトの大事な試合にも呼ばれて両方に出ていた」
男兄弟が集まれば、サッカーの話題ばかり。アウグストはバスコ・ダ・ガマの熱烈なファンだったが、それはサンパウロ州にあるサンパウロとパルメイラス、リオデジャネイロ州にあるフラメンゴ、バスコ・ダ・ガマというブラジルが誇る強豪チームを兄弟で振り分け、アウグストがバスコの応援担当になったからだ。お互いのチームが対戦する時、一喜一憂しながら試合の行方を追っていた。友だちの間では、ワールドカップに出場するチームと選手の名前を競って覚える遊びがはやり、ほぼ全員を覚えていたという。
「もう忘れちゃったけどね。どの試合に誰が出場したとか、必死に覚えたよ」
ブラジルで最も長くプレーをしたゴイアスでの5年間は、アウグストにとって思い出深い。憧れの選手だったバウタザール(元京都サンガ)が引退前にゴイアスに来ることになり一緒にプレーができたからだ。ちなみに、アウグストの日本への移籍を整えたのはバウタザールであり、今では親友という関係である。「縁とは不思議だね」と微笑んだ。
左サイドバックに転向したのも、この時期だ。
「それまで左の攻撃的MFだったのが、左サイドの選手がケガをして監督にやるように言われた。他のチームの選手はディフェンス重視だったから、攻撃が得意な僕は珍しかったみたいでうまくいったんだよ。自分でも、このポジションが気に入った」
ケガが治ってチームに合流した左サイドバックの選手は、アウグストの活躍により定位置を失うことになった。
1999年にプレーしたコリンチャンスでは、ブラジル全国選手権優勝、FIFA世界クラブ選手権優勝など大きなタイトルに恵まれた充実した1年だった。
2001年、ボタフォゴでシーズンを終えようとしていたアウグストのもとにジーコから電話が入った。「鹿島アントラーズへ来ないか」という誘いだった。2001年、アントラーズは苦しんでいた。ファーストステージは故障者と出場停止が相次ぎ、チーム創設以来最悪の11位。そこへ助っ人として急きょ呼ばれたのだ。
セカンドステージ、アウグストはその期待に応える活躍をする。第1節から2試合連続ゴールを皮切りに13試合5得点。アントラーズはセカンドステージ優勝に輝いた。ジュビロ磐田とのチャンピオンシップも制覇し、翌年のヤマザキナビスコカップも制した。
「鹿島では、みんなに優しくしてもらった。選手にもスタッフにもサポーターにも温かく迎えてもらって、すごく日本が気に入ったよ」
昨年の天皇杯のことも忘れがたい記憶だ。アウグストの退団が発表され迎えた天皇杯、最後のカシマスタジアムでサポーターの大歓声に包まれたこと。フロンターレとの一戦は、今となっては「運命」だとさえ感じている。
「(決勝ゴールになった)本山へのパス、あの時、フロンターレに来ることが決まっていたら、あのセンタリングは出さなかったのになぁ(笑)」
鹿島の強さ、優勝するチームの根底にあるものは何だと考えるだろうか?
「優勝するために必要なことは、サポーター、クラブスタッフ、選手みんながひとつになることだよ」
フロンターレに移籍が決まり、アウグストは合宿での体力作りに力を入れた。「44試合」戦えるフィジカルをもつためだった。
「最初のキャンプでいいフィジカルをやったから、ケガもない。シーズン前に『44試合だいじょうぶですか?』って聞かれたけど、問題ないよ」
ブラジルのサッカーはスペースを使って仕掛けるカウンターサッカーが主流だ。それと全く違う日本の速いサッカー、とくにプレッシングサッカーをどう感じているのだろうか。
「たしかに、ブラジル人はプレッシングサッカーにちょっと苦手意識があるかもしれない。でも、今年のフロンターレはプレスをかけて奪ったところから速く攻めることで得点が生まれている。1年間ずっとやってきたから、このサッカーに馴染んだよ」
アウグストは左サイドの選手ながら、これまで15ゴールを記録している。そして放ったゴールは、その数字以上に大きな意味をもつ。チームが劣勢で苦しい時こそ、この男の存在に光が降り注ぐかのようだ。
「最近気づいたんだけど、難しい試合でけっこう点を取っているなぁって。それは、勝ちたい気持ちが強いからだと思う。例えば、前に上がっていきたくてもいけない時もある。でも、チャンスを見て上がっていくと、結果的に決勝ゴールになる。高いモチベーションで戦っているのを、神様が見ていてくれるのかなぁと思うよ」
さらに言葉を続けた。
「僕が日本に来たのは、ただサッカーをするためだけじゃない。自分が入ったチームが結果を出すため。だから、フロンターレで昇格したいんだよ」
「何より勝ちたい気持ちが大事だ」という。チームメイトでその気持ちを一番強く感じるのは、鬼木達だ。
「オニキは、一緒にやると試合中にすごく声を出すしポジションの修正とかみんなに指示を出す、とても大事な選手。モチベーションもすごく高いのが伝わってくるよ」
もうひとり、気に入っている選手がいる。中村憲剛だ。
「ケンゴのプレーを観るのが大好きなんだ。ドリブルがうまいし、速いし。たまにケンゴの真似してドリブルしてみるんだけど(笑)」
試合中に考えていることは、ひとつしかない。「勝利」だけである。アウグスト対策を敷いてくるチームに対しては、「相手のプレスがきつい時は、縦に上がっていけないこともあるから、斜めに入るとか少し引くとか工夫は必要になる。でも、やっぱり一番考えていることは、勝つこと。それしかない」
勝利だけを求めて90分間、闘志を燃やし続ける。声を出す時も、相手選手と言い合う時も常に全力を出す。「僕は半分が選手、半分がフロンターレのサポーターなんだよ」と真顔で言ってのける。だからこそ、負けた時の落ち込みは相当なものだという。「負けると本当に辛い。自分の心が半分になった感じがするんだ」と突然小さな声になり、がっくりと肩を落とした。そんなアウグストを勇気付けるのは、やはりサポーターの存在だ。
「アウグストコールを聞くのが大好きなんだよ! それを聞ける時が、一番幸せ」
そう言って、ぱっと顔をあげて子どものように嬉しそうな表情を浮かべて声をあげて笑った。
「僕はね、サッカーが大好きなんだ。子供の頃とまったく同じ気持ちなんだよ。34歳になったけど、ほんとにサッカーが楽しいし大好きな気持ちはあの頃と変わらない」
2001年、セカンドステージから鹿島アントラーズへ。今季より、フロンターレに移籍した左サイドの熱き番人。
1968年11月5日生まれ、ブラジル出身。179cm、73kg。
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