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  • ピックアッププレイヤー 2018-vol.07 / 主務 / 清水泰博

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マネージャーの仕事って?

主務 清水泰博

マネージャーの仕事って?

テキスト/麻生広郷 写真:大堀 優(オフィシャル)
text by Aso, Hirosato photo by Ohori,Suguru (Official)

プロサッカークラブのマネージャーの仕事というと、どんな業務を想像するだろう。選手が練習に集中できる環境を作る仕事というのは何となくわかる。でも、具体的にどんな内容なのと聞かれると、すべてを答えるのは難しい。2011年から川崎フロンターレの主務としてチームを陰から支える清水泰博。中村憲剛いわく「寡黙だけど妙に説得力がある」という独特なキャラクターだが、彼をはじめとする裏方の細やかなサポート、さりげない気配りがあるからこそ、現場がスムーズに回るのだろう。

非常勤講師からマネージャーの道へ

「マネージャーの仕事内容ですか? うーん…、具体的にこれっていうのは難しいんですよねえ」

「清水さん」「ジロー」「ヤス」「やっさん」選手やスタッフからは、いろいろな愛称で呼ばれている。いつも淡々としていて、口数は多くない。でも、仕事はできる。選手やスタッフに清水主務の印象を聞くと、だいたいそんな答えが帰ってくる。

 地元は佐賀県佐賀市。子供の頃はどこにでもいるサッカー少年だった。地元の進学校である佐賀西高校のサッカー部時代には、佐賀県選抜の一員として大久保嘉人擁する長崎県選抜と対戦(結果は圧倒的大差での敗戦だったそうだが…)。当時の高校時代の顧問に影響を受け、教師や指導者の道に進みたいと考えていたそうだ。高校卒業後、筑波大学に進み、大学3年生時に選手兼任の副務、4年時には現役を退き主務を努めたことが、現在のマネージャー業につながっている。

「大学3年生の頃は選手をやりながら、副務としてあれこれチームのお手伝いをする感じでした。4年生も現役を続けてもよかったんですが、学年から1人主務を出さなければいけなかったんですね。なり手がいなくていろいろ話し合っているうちに面倒になってしまって、僕がやることになりました。トップチームには卒業後プロの世界に入る選手もいたので、マネージャーとして1年間現場に関わって、その経験を教員や指導者のキャリアに生かせればいいかなと思って。それがマネージャー業のはじまりです」

 大学卒業後は地元に戻って教員を目指しながら、佐賀東高校で非常勤講師とサッカー部のコーチを務めた。当時のサッカー部員のなかには、赤﨑秀平や中野嘉大(現仙台)がいた。現在プロとして活躍している2人は、鹿児島から出てきての寮生活。いま思えばサッカーとの向き合い方、そして本人の覚悟が違っていたという。清水が寮監(寮の管理)を務めていた時期、プロを目指している寮生に何かヒントになることはないかと考え、筑波大学からプロに進んだ選手のエピソードや心構えを話していたそうだ。

「清水さんは高校時代にお世話になりました。僕は寮生だったので、やっぱり寮監の印象が強いですね。当時はもっと厳しかったですけど、だいぶ優しくなりました。教員の試験もあるけど寮監の仕事や部活動もあって、けっこう忙しかったんだと思います。筑波大学を勧めてくれたのも清水さんなんですよ。寮の前に階段があるんですけど、そこでいろいろと大学時代の話をしてくれました。僕らからすると先生っていう最初の印象が強いので、そこはいまもそのままです」(赤﨑秀平)

 非常勤講師として3年目、清水に大きな転機が訪れる。それは大学時代のサッカー部監督で、当時水戸ホーリーホックの監督を努めていた木山隆之氏(現山形監督)からの1本の電話だった。

「地元で非常勤講師をやっていたところで、『水戸がマネージャーを探してる』と木山さんから声をかけていただいたんです。木山さんは現役を引退したあと、指導者の勉強のために筑波に戻ってサッカー部の監督をやっていた時期があって、そのときの主務が僕です。Jリーグのクラブのマネージャーなんてなかなかできない経験ですし、あと教員の試験に一般企業で3年以上勤めた経験がある人に向けた社会人採用枠みたいなものがあったので、今後に生かせるんじゃないかなと」

 2009年、清水は関東に舞い戻り、Jクラブのマネージャーとしてのキャリアをスタートさせた。ただし、ひと言にマネージャー業務といっても、その内容はクラブの規模や考え方で大きく変わる。事務手続きや備品管理、用具の準備などを分業しているクラブもあれば、練習着の洗濯からグラウンドの手配、練習のアシストといったすべての雑務が業務に含まれるクラブもある。水戸の場合はどちらかといえば後者で、清水は朝から用具車を運転して練習に使うボールや備品を練習グラウンドに運び、練習後は遠征の手配、クリーニングから戻ってきた練習着やユニフォームの仕分けと、毎日大忙しの日々を過ごした。

「クラブによってはマネージャーが何でもやらなければいけないので、一部の環境が整ったクラブ以外は大変な仕事だと思います。いまはマネージャー業務を教える専門学校があって、その卒業生も入ってくるようになっていますが、その一方で理想と現実の違いを感じて辞めてしまう人も多い。そこはちょっと残念な流れです。ただ、水戸の頃は現場の裏方の仕事をひと通りやらなければいけなかったので、本当にいろいろ学ぶことができました」

主務 清水泰博

気配りの仕事

「マネージャーって、やっぱり気配りの仕事じゃないですか。その点では、ジローはこちらが思う前に先、先でいろいろ準備をしてくれるので、僕らとしては非常に助かります。だからストレスはほぼないですね。ただ、僕個人に対してまったく気を遣わないのがちょっと気になりますけど…(笑)」(鬼木監督)

 清水は水戸で2年間マネージャーを務めたあと、2011年から川崎フロンターレのマネージャーになった。木山氏が契約満了でチームを離れ清水自身も今後の身の振り方を考えていたとき、水戸でお世話になった人たちが相談に乗ってくれ、タイミングよくフロンターレからマネージャーの話が舞い込んできたのだ。

「フロンターレにきた当初は事務的な業務をしていたマネージャーがいたので、僕はグラウンドのサポートや遠征の手配を担当していました。今はどちらかというとグラウンドのことは主に副務に任せて、自分もサポートしつつ、クラブハウス内で事務作業をやったりしています。主務という役職はずっと変わっていないですけど、やらせてもらえることは徐々に変わってきています」

 清水がフロンターレに来てからの一番の仕事といえば、現在のクラブハウスの建設に関わったことかもしれない。チーム側の窓口として建物の設計段階から施工会社と綿密に打ち合わせを行いながら、現場の意見を取りまとめた。計画されてから完成するまで約1年半を擁するプロジェクトだったが、そのかいもあって2016年、立派なクラブハウスが完成した。

「もしかしたら、その頃がいままでで一番忙しかったかもしれないです。選手の意見を聞きながらというもありましたけど、みんながリラックスできる環境、サッカーに集中できる環境作りのために、かなりこだわって作っていただきました。完成後、こうして欲しかったという声は選手やスタッフからあまり聞こえてこないので、まぁよかったんじゃないでしょうか」

マネージャーの日常

 清水主務のある1日の流れを追ってみる。

 午前練習があるときは朝7時半にはクラブハウスにやってくる。選手のロッカー整理、風呂場などのチェック。選手がスムーズに練習に入れるようにチェックしておく。

 8時すぎぐらいから選手がクラブハウスにやってくる。選手に用事があるときは話をするが、練習の準備の妨げにならないよう必要以上に入り込まないよう心がけているそうだ。

 練習1時間前に監督やコーチ、広報といったメンバーと一緒にスタッフミーティング。1日のスケジュール確認を行う。今日はこの選手が別メニュー、この選手が不在といった情報を現場で共有をしておく。

 10時に練習スタート。現在はグラウンドのことは副務の渡辺翼に任せることが多い。清水は連戦時は遠征のスケジュール調整。移動手段や宿舎の手配、食事メニューを決める。

 お昼前。選手が練習から上がってくる前に補食のおにぎりなどを準備する。選手に用事がある場合は声をかけ、選手からの相談や要望があればコミュニケーションを取る。

 その後、スポンサーやサプライヤー、業者とのやり取り。練習着やユニフォームでであればプーマ。ボディソープであればSABON。プロテインやサプリメントであればSAVAS。甘酒であればマルコメなど。ウエアやアメニティグッズ、食品の発注や受け取り、管理を行う。

 また現在では遠征費の精算といった予算管理に加え、選手が公式戦に出場できるよう、Jリーグや日本サッカー協会への登録業務も行っている。

 そうこうしているうちに日が暮れ、結局クラブハウスを出るのはだいたい20時すぎぐらい。現在はシーズン前半の連戦がひと段落して少し落ち着いたそうだが、それでも忙しい日々に変わりはない。

「これだけやっておけばいいという仕事ではないので、内容を説明するのが難しいんですよね。まぁざっくりいうとチームがスムーズにスケジュールをこなせるように、選手や監督、コーチがサッカーに集中できるように環境を作る何でも屋です」

 またチーム遠征時には選手、コーチ、スタッフ約30名の移動を手配を行う。Jリーグは過去に行ったことがある土地が多いので問題は少ないが、それでも天候や渋滞などに左右されることもある。限られた時間での移動は、いまでも緊張感があるという。

 これがACLになると、さらに大変だ。旅行会社のスタッフとともに事前に現地視察に行き、シミュレーションを兼ねて実際に移動経路を確認。空港や練習グラウンド、ホテルを実際に見て、食事メニューや現地で調達する備品をオーダーする。自分の目で見て、耳で聞いて、現地のさまざまな情報を仕入れておく。

「ACLは行けるクラブが限られているので貴重な経験ですし、やっぱり面白いですよね。きっちり予定を組んでいてもハプニングやアクシデントは起こりえるので、最初から大丈夫だと決めつけないようにしています。そのあたりは柔軟に対応できるようになってきました」

初心を忘れず、よりよい環境作りを

「選手とマネージャーの関係って、管理される側と管理する側って感じですよね。あいつはサービス精神旺盛という感じではないですけど、選手がサッカーに極力集中できるよういろいろと気を配ってくれています。まぁ本当にきっちりしてますよ。だから僕でもまったく懐柔できません(笑)。チームを背負っているところもあるので、曖昧さはないです。感情が表面に出ないタイプだから全然読めないですけど、選手の扱いに慣れていますし、しっかり者だから若い選手たちも『清水さんがいうなら』みたな空気になる。うまくチームを回してくれていますよ。いまやクラブハウスの主みたいな存在です」(中村憲剛)

 清水がフロンターレにきてから8年の月日がたち、チームを取り巻く環境も少しずつ整ってきた。昨シーズンには念願のJ1初タイトルを獲得。周囲からフロンターレはビッグクラブと認識されるようになってきている。だからこそ自分の足元を見つめ直し、改めてプロとしてどうあるべきかを考えて過ごしてもらいたいと話す。

「初心を忘れないように。これは僕自身もそうですが、選手にもそれとなく意識づけするように気をつけています。みんなプロサッカー選手だけれども、そのプロサッカー選手に憧れていた時代があったと思うんですよね。そういう年代の子どもや若者を見てきましたし。プロの環境は選手自身の力でつかみ取ったものです。ただ、新しくなったクラブハウス、芝がきれいに整えられている練習グラウンド、それからファンサービスひとつにしてもそうですが、そのありがたみを感じながらやってもらいたいなと思います」

 これだけやっておけばいいという仕事ではない。選手やスタッフがストレスなくサッカーに打ち込むのが大前提にあり、その上でチーム全体に気を配らなければいけない。大学時代、先輩から「ミスなく仕事をしたからといって、ほめられるような仕事じゃない。でも、ミスがあったときには怒られる。それがマネージャーだ」と釘を刺されたという。また現場側の要望を上に通すだけではなく、逆に会社の意向をチームに伝えなければならない。ときには面と向かっていいづらいことを説明する厳しさも求められる。

「それぞれに個性があって、きっちり説明しないと納得しない人もいれば、冗談交じりに話すとスムーズにことが運ぶ人もいます。接し方や話しかけ方というのは、非常勤講師の頃の経験が役立っていると思います。やっぱり選手の心をつかむというか、しっかり人間関係を築くことが一番じゃないでしょうか。僕自身、それだけでここまできているようなものなので」

 日々の練習がスムーズに運ぶよう準備する管理人。チームの遠征スケジュールを調整する引率の先生。現場と会社のパイプ役となる中間管理職。さまざまな顔を見せる清水マネージャーの仕事内容が見えてきた。任される仕事の幅も広がり、その責任の度合いも年々大きくなっている。

 だが、そのぶんやりがいもある。

 マネージャーをやっていてよかったこと。それは現役引退を考えている選手から、今後の身の振り方について相談を受ける機会が多くなってきたことだという。1人の選手とチーム全体を見るマネージャーという間柄のときはお互いの立場があり、深く入り込めない部分があるかもしれない。でもユニフォームを脱いだあとは腹を割って、男同士のつき合いができる。それは彼への信頼感の表れにほかならない。

「毎年同じことの繰り返しだけじゃなくてやらせてもらえる範囲が広がってきたので、周りに対しての責任もあります。ただ、選手やクラブのために、もっと新しいことができるんじゃないかなって思っています。僕自身は高校サッカーを見てきて、J2のクラブでも仕事をしてきました。フロンターレはスタッフの人数も多い方ですから、もっといい環境が作れるんじゃないかなって。それを実現するためにどうすればいいかを考えるのは、楽しいといえば楽しいですね。時間がかかるかもしれないですし、これが正解というものもない仕事ですけど、とにかく好奇心と向上心を持って取り組んでいきたいと思います」

profile
[しみず・やすひろ]

2011年より主務を務める。クラブハウス管理やスケジュール管理、遠征での宿泊地やチケットの手配等、チームに関わる業務全体の取りまとめを行う。

1983年3月24日、佐賀県佐賀市生まれ
ニックネーム:やっさん

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