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  • ピックアッププレイヤー 2020-vol.01 / 脇坂 泰斗選手

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希望

脇坂 泰斗選手

希望

構成/麻生広郷 写真:大堀 優(オフィシャル)edited by Aso Hirosato photo by Ohori Suguru (Official)

昨年は念願のリーグ戦デビューを果たし、シーズン後半戦はコンスタントに試合に絡む活躍を見せた。プロ入り3年目となる今シーズンは、さらなるステップアップが期待される。クラブとしても新たなチャレンジとなる2020年──。キーマンの1人である脇坂泰斗のプレーに注目したい。

「プロ1年目の2018年はなかなか試合に絡むことができなかったので、絶対に試合に出て活躍するんだという強い気持ちを持って2019年のシーズンに入りました」

 プロ入り2年目の2019年、第5節アウェイ松本山雅戦でリーグ戦初のベンチ入り。第8節ホームでの湘南ベルマーレ戦で終盤に途中出場し、第10節ベガルタ仙台戦ではJリーグ初のスタメン入りを果たすと、いきなり2アシストの活躍を見せた。「僕としてはそこから1年がはじまったというか、プロしてもはじまった感じがします。そこからはあっという間でした」と2019年を振り返る。

「プロ入り1年目の2018年の後半あたりからトレーニングマッチで結果を残せたり、紅白戦でも『やれているな』という感覚がありました。だから2019年の自分に対する期待がありましたし、最初はそのチャンスがなかなか来なかったですけど出番が回ってくれば絶対やれるっていう自信もありました。仙台戦で2アシストという結果を出せて、次節の清水戦やACLで得点を取れたのも大きかったです。ただ、試合に出る前の自信と出てからの自信はまったく違うものなんだなって感じました」

 ルーキーイヤーはなかなかチャンスに恵まれず苦しい時期を過ごしたが、プロ2年目に入りリーグ戦で18試合に出場。多くの得点シーンに絡み、自身も5得点を記録。ルヴァンカップ、ACLグループステージでもそれぞれ2得点を挙げた。本人が口に出すことはないが、同期の大卒選手である守田英正のプロ1年目からの活躍を目の当たりにして思うところもあっただろう。

 だが、揺らぐことなく地道にトレーニングを積み重ね、少し時間はかかったがプロのリズムに適応できるようになった。周りの選手の特徴を生かしながら自分の持ち味も生かす脇坂のプレースタイルは、今ではチームの攻撃のアクセントになっている。同じアカデミー出身の後輩である田中碧もそうだが、試合のピッチに立てる喜びが伝わってくるようなはつらつとしたプレーは、チームに新しい息吹をもたらしている。

「サッカーを楽しんで失敗を恐れずプレーするという部分では、それがプラス方向に向いているときはチーム全体でいいプレーが続くのでよかったと思います。攻撃的なポジションでの得点やアシストは自分の特徴でもありますし、ましてやフロンターレは攻撃的なチームなので、そういった積極的な姿勢は外せないですよね」

脇坂 泰斗選手

 フロンターレの司令塔といえば、やはり中村憲剛の名が浮かぶ。

長年に渡ってチームを牽引してきた背番号14の背中は、同じ攻撃的MFの脇坂にとっても非常に大きな存在だ。学生時代のヒーローだった偉大な選手と肩を並べて日々練習し、同じピッチに立つ。「まだまだ足りないです」と本人は話すが、より動き、よりゴールに近づくという脇坂なりの色は少しずつ出せているのではないだろうか。

「フロンターレのトップ下といえば、やっぱりケンゴさん。得点もアシストもできますし、状況に応じたプレーができる。自分もそういう選手にならなきゃいけないと感じています。プロになってチームメイトとして一緒にプレーする機会が増えて、より尊敬するようになりました。ピッチ内はもちろんですが、ピッチ外でも学ぶべきことが本当に多いです。2019年はケンゴさんが試合に出たり僕が試合に出たりするなかで、会話をする機会が増えました。僕が試合に出ているときはハーフタイムや給水のときにケンゴさんにアドバイスをもらって、自分の感覚とすり合わせて2人で共有するというか。そこで新しい発見があったりして、成長させてもらっていると感じています」

 同じチームでもポジションが被れば通常はライバルだが、「周りからよくいわれるけど、ライバルとはまたちょっと違うんだよな」と中村が語るように、お互いに刺激を受けながら高め合えるいい関係を築けている。

「ケンゴさんも僕や守田、アオ(田中碧)が成長してくれるのが嬉しいと言ってくれますし、いい意味でケンゴさんの存在をうまく生かして自分が成長していくことがチームの成長にもつながると思っています。あれだけ経験のある選手が、僕にアドバイスすることで発見があるって言ってくれるのがケンゴさんの懐の深さですよね」

 2019年のフロンターレは多彩な攻撃陣を擁し、前線の組み合わせや布陣を変えながら戦ってきた。脇坂の出番がないどころか、得意とする1.5列目のポジションがない2トップの布陣で臨む試合もあった。そんなときには同じポジションを務める中村ならではのエールをモチベーションに変えていた。

「ケンゴさんが帯同していなかったアウェイ磐田戦で僕が得点を決めたとき、試合後にSNSで『ナイスゴール!』『俺たちでトップ下を復活させるぞ!』っていうメッセージが送られてきたんです。同じ試合、同じポジションで2人同時には試合に出られないんですが、僕自身もトップ下のポジションを取り戻そうという気持ちがあったので、その言葉をもらったときは本当に嬉しかったです」

 脇坂の理想は何でもできる選手だ。ボールを止める、蹴るといった基本的なプレーが高いレベルで正確なのを大前提に、その上で自分たちの状況、対戦相手の状況を見てベストな選択をする。そういう意味でも中村のピッチ全体を見ているような老獪なプレーは、彼にとっていいお手本だ。

「正解はひとつではないと思いますけど、相手にとって嫌なところにいる、味方が来てほしいところにいるというように、自分が取ったポジショニングの意味を考えながらプレーするようにしています。でも試合を見返したとき、やっぱりこっちの方がよかったなと思うこともあるんですね。そういうとき例えば『ボールを受けられていないから、もっと受けたいんです』ってケンゴさんに聞くと、『いや、お前がボールを受けられなかったとしても、そこにいることで周りの選手がフリーで受けられるよ。それがポジションの意味になるから』って返してくれるんです」

 「まずプロ1年目の1年間でしっかりトレーニングを積めたこと。それから同期の守田が先に試合に出て悔しい思いをしているなかで、腐らず続けてきたことが開花しはじめたのかなと。ヤスはチームの潤滑油になれる選手なので誰と組んでもスムーズにプレーできますし、なおかつ動きながらプレーして自分で点を取ることもできる。それが彼の強みで、チームとしての強みだと思うんですよね。2019年はそれがいい形でチームに反映されていたと思います」(鬼木監督)

 麻生グラウンドでの練習後、鬼木監督に声をかけられ2人で話し込む光景をときおり見かける。鬼木監督が練習中のプレーや起用法に関して選手とマンツーマンで話をすること自体は珍しくないが、脇坂の攻撃センスを認めているからこそ彼への要求も高い。できるようになってきたからこそ見えてきた課題。それはいろんな意味での「力強さ」だ。

「攻守においてボールを取る、取られないといった単純な強度を上げていくこと。ヤスがさらに成長していくためには、タイトな日程での試合や本当に強いチームと戦ったときにどれだけ自分のプレーができるかがこれからの課題になってくると思います。『ヤスにボールが入ったら絶対大丈夫だ』と周りに思われるぐらいのレベルまで行ってほしいですよね。次の段階に向かっていく過程で必死でやっていたところから少し余裕が出てきて、そうなるともっといいプレーをしたいとなってくる。それが成功すればいいですけど、逆にいいプレーをしようとしすぎてミスをしてリズムを崩すこともあるでしょうし。そこは心の持ちようが大事になってくると思いますが、こればかりは経験していくしかないですし、乗り越えてもらいたいと思います」(鬼木監督)

 脇坂がピッチで動き回り数多くボールに触っている時間帯は、本人だけではなくチーム全体に躍動感が生まれる。2019年のリーグ最終節アウェイ札幌戦では、キックオフ直後に相手ボールを奪うと軽快なテンポで20本近くのパスがつながり、右サイド裏のスペースに抜け出した脇坂の折り返しを小林悠が合わせ試合開始43秒で先制点が生まれている。映像を見直してみると、その半分近くのボールに脇坂が関わっているのがわかる。さらに13分にはペナルティエリア左前からのフリーキックの場面で、相手GKの意表を突きクロスと見せかけて直接ゴールを奪っている。まさに彼の真骨頂が発揮された2得点だった。

「ヤスがたくさんボールを触って動いているときは、チームとしてもいいリズムでボールが回っています。それぐらい影響力が強くなってきたということだと思いますね。綺麗にプレーすることに関してはじゅうぶんできる。あとは泥臭く戦ってくる相手に対してどれだけハードにプレーできるか。ポジショニングのうまさが注目されがちなケンゴにしても決して弱いわけじゃなくて、球際のプレーでボールを取りきったりしますよね。そういった実戦での強度も必要になってくると思います。あとイニエスタ選手なんかは強いとか弱いとかじゃない次元で勝負ができるじゃないですか。それぐらいまで技術的に伸びて相手を見る目を養えば、ヤスはもっとよくなると思います」(鬼木監督)

 ボールに触れないとき、思うようなプレーができないとき、どう打開していくか。高いレベルを追い求めて一歩一歩進んできたからこそ、違った景色が見えるようになってきた。それは本人もじゅうぶん自覚している。

「自分の持ち味の攻撃もさらに伸ばしていきたいですし、守備でも自分で判断してボールを取れるようになりたいです。守備のスイッチだけではなくて自分のところでボールを取れば、より相手ゴールに近い位置で奪えることになるので。相手ボールのときはFWやトップ下から守備がはじまるので、そこは後ろの意見を聞きつつ、前の選手が行けると思ったらスイッチを入れて味方のボランチやセンターバックを引っ張っていく役回りも必要かなと。前が本気でボールを奪いに行く姿勢を見せれば相手は嫌がりますし、味方の選手たちも自然とついてきてコンパクトな布陣になるので、そこは試合や練習中からみんなで話し合っていますし、僕自身もっと力をつけていきたいです」

 攻撃で特徴を出しつつ、守備でもパワーを使う。そのバランスやペース配分、調節の仕方が難しいところだが、「でも、それを操るのが僕のポジションであって、そこがまだまだ足りないところなんです」という答えが返ってきた。

「今はチームとして落ち着かせた方がいいのか、それともギアを上げた方がいいのかという判断は、自分がやらなければいけない役割だと思います。それこそケンゴさんがやっているような、チーム全体をコントロールできるような存在。そこが僕の目指すべきところです」

 試合に出て成功と失敗を繰り返しながら結果を残していくなかで、脇坂はチーム内でも一目置かれる存在になった。だが、それは周りから見る目が厳しくなり、同時に対戦相手からより警戒されることを意味する。

 中村は昨年11月に全治7ヶ月という大怪我を負い、新シーズンの前半戦はピッチに立つことが厳しい状況だ。チームの攻撃を担うチャンスメーカーとして、脇坂には大きな期待がかかる。あえて厳しい環境を選んでプロの世界に入ったように、プレッシャーがかかるのは覚悟の上だ。そのプレッシャーを楽しみたいと語る。

「フロンターレのトップ下というポジションは、攻撃のスイッチを入れるすごく大事な役割です。当然、相手チームとしては警戒して潰してきますし、そこにどう打ち勝っていくかが僕の課題ということも自覚しています。そうなったときに何ができるかが重要なので、本当の意味で勝負はここからだなと。1試合1試合、ひとつひとつのプレーを大事にして、よりいい選択ができるように成長していきたいです。もちろん大変ではあるんですけど、それも楽しいんです。

 前回のピックアッププレーヤーで取材をしてもらったときに話したんですけど、あの頃は壁にぶつかってチャレンジしていく楽しさがありました。今は試合に出て成長できる楽しさがあります。トップ下は成功失敗が目立つポジションでもあるので、称賛もされますし、批判もされる。だからこそ楽しんで、強い気持ちでサッカーに取り組むのが、僕にとって一番大事なことだと思います」

 先に見据える目標は、さらにレベルアップして日本代表に入れるような選手になること。そしてチームとしては、よりたくさんのタイトルを獲ること。

 プロ1年目のリーグ連覇は嬉しかったが脇坂自身は試合に絡むことができず、どこか他人事のような気がした。プロ2年目のルヴァンカップは、全5試合のうち4試合に先発出場。優勝をより実感することができた。

 そしてプロ3年目となる2020年は、彼にとってどんなシーズンになるのだろうか。

 すべてが思いどおりに運ぶわけではないし、もちろん苦しい時期もやってくるだろう。でも、すべての経験が彼の財産となり、クラブの財産になる。

 脇坂泰斗は憧れていたトップチームのユニフォームをまとい、憧れていたヒーローの背中を追いながら、等々力陸上競技場のピッチに立っている。

profile
[わきざか・やすと]

巧しなやかな動きと確かな技術で対面する相手を翻弄するテクニシャン。周りの選手とのパスワークでバイタルエリアを攻略し、ラストパスを狙いながら自らもゴール前に入り込む。

1995年6月11日
神奈川県横浜市生まれ
ニックネーム:ヤスト

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