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希望

長谷川 竜也選手

always thinking

構成/原田大輔 写真:大堀 優(オフィシャル)edited by Harada Daisuke photo by Ohori Suguru (Official)

 その選手がボールを持つと、何かが起きるのではないかとワクワクする。
トラックの青と芝生の緑が眩しい等々力陸上競技場。左サイドへとパスが展開されると、ボールを受けた小柄な選手が前を向いた。
その瞬間、メモを取る手を休め、思わず記者席で前のめりになっている自分がいた。さらに大きくなる歓声を聞けば、スタジアム全体が同じ感覚を共有しているのだと分かって何だかうれしくなる。
 川崎フロンターレの背番号16とはそういう選手だ。ワンプレー、ワンプレーが見ているこちらを引きつけ、そして期待させる。だから、そのドリブルに、そのフェイントに、そしてシュートにこちらは息を呑む。瞬きを忘れるくらいに——。
 長谷川竜也のプレーは、ときに俯瞰して見ているかのように冷静で、ときに強引なほど強気にも見える。柔と剛を併せ持つその判断力はどのように培われてきたのか。
 頭の中を覗いてみたい。その思いにずっと駆られていた。

「基本的に常日頃から考えることが好きなんです」

 川崎フロンターレに加入して5年目を迎えた長谷川竜也は、そう言って笑った。

 考える習慣は、順天堂大学時代に確立されたという。

恩師である吉村雅文監督から「サッカー選手である前に一人の人間として成長しよう」と言われたことが大きかった。幼いころから身体が小さかった長谷川は、もともと考えなければ生き残っていけない環境でサッカーを続けてきた。加えて大学時代に「成長」と「貢献」のふたつを意識しながら生活を送ったことで、「組織の中で自分に何ができるか」をさらに追求するようになった。

 そのベースはプロになってからも、彼を支える礎となった。

「試合に出られる、出られないという基準ではなく、フロンターレでサッカーをすれば、選手として一番成長できるというのが加入を決めた理由だったんです。でも、入ってみたら予想以上にレベルが高くて、プロ1年目は自分の力のなさを痛感させられました。振り返れば、とにかく余裕がなくて、がむしゃらにやっていましたね」

 ルーキーなだけに遠慮もあったのだろう。当然、遠慮があれば、自分の特徴を発揮できるわけがない。練習では良いところなく、その日が終わることもあった。

「心が折れそうになったことは何回もあります。悔しくて、悔しくて。寮の部屋で一人、何もできないまま、オレ、このままやめるのかなって思っていましたから。むしろ、この状況から逃げてしまえば楽かもしれないなって……」

 うまくいかないことが続けば自暴自棄にもなるし、現状から逃げたくもなる。それでも自問自答を繰り返せば、現実から目を背けようとする自分と、逆境に立ち向かう自分がいた。

「ここでやめたら絶対に後悔するし、そんな自分を求めてフロンターレに来たわけじゃない。その思いで弱い気持ちにずっと打ち勝ってきたんです」

 長谷川はこのとき、考えることで壁を乗り越えようとしたのである。

長谷川 竜也選手

 部屋にあったノートを引っ張り出すと、自分を客観視して、どんな人間なのかを書き出した。

 自分は周りの目を気にする人間なのか。格好つけたいと思うところがあるのか。ありのままの自分をさらけ出すかのように心の内を、本音を綴った。

 本当の自分を、本人が否定してしまえば、自信を喪失していく。自分だけは自分を認めてあげようと、理想とする自分を体現するための答えを探していった。

 自分が思う、格好いい自分でありたい。

「それをつかみ取るためには、泥臭くてもいいから必死でもがいたほうがいいのではないかと思い直すことができたんです。その結果、今の自分に何が足りないか、何が必要かも見えてきた。あのときもそうですけど、常に主観的な自分と客観的な自分というものは持つようにしています」

 ひとつ、長谷川の頭の中を覗けた気がした。

導き出されたプレーが背後だった。

「自分のプレーを分析していく中で、周りと同じことをやっていても経験の差が出てくる。チームが求めていることの中で、自分ができる違いとは何か。それが背後への動き出しだったんです。そこにトライするようになってからチャンスが巡ってきた」

 プロ1年目の2016年、迎えたJリーグチャンピオンシップ準決勝だった。長谷川は先発に抜擢された。試合は0−1で敗れただけでなく、長谷川自身は負傷により、前半21分という早さでピッチから退くことになったが、2年目へとつながる確かな手応えだった。

 ただ、当時の長谷川は23歳の若者である。いかに自分に厳しくあろうとしても、弱さが勝ってしまうこともある。2017年シーズンはケガをしたこともあり出遅れた長谷川は、開幕当初、ベンチ外になる日々が続いていた。

 AFCチャンピオンズリーグを戦うため、アウェイに向かった広州恒大戦だった。遠征メンバーには選ばれたものの、その前の試合や練習の状況を見れば、自分はメンバー外になるだろうと、心のどこかで思っていた。

 だが、現地で行った練習でケガ人が出る。長谷川はメンバー入りすると、試合中にも負傷者が出た影響で、途中出場のチャンスが巡ってきた。それは長谷川にとってうれしい意味で予期せぬ事態だった。ただ、試合に出場することはないだろうと高を括っていただけに、心の準備は万全ではなかった。

 好機を活かせなかったらどうしよう。不安がよぎらなかったといえば嘘になる。ただ、長谷川は、ここで再び考え、自分自身に開き直れたのである。それも短時間で。

「正直、試合前のメンタルは決して褒められた状況ではなかったと思うんですけど、そこからメンバー入りして、ベンチに座り、試合にいざ出るという時間までに自分のメンタルを軌道修正できたんです。自分のやるべきこと。ここでチャンスを逃せば次がないこと。消極的なプレーをしても意味はないので、アグレッシブにプレーしようとも思えた。自分の良さを出すことに注力できたんです。それがモチベーションへとうまく変換できたんです」

 ポジションは左サイドバックだったし、試合にも勝利することはできなかった。だが、アウェイで広州恒大相手に1−1と引き分けたことは自信へとつながった。

「考えるまでもなく、人生においてここだなって瞬間って、誰しもあると思うんです。たとえ、それが突然だったとしても、活かせるかどうかで、次につながるかどうかは変わってくると思うんですよね」

 短時間での気持ちの切り替え。言い換えれば度胸とか、肝を据えるとでもいえばいいのだろうか。メンタルの成熟は長谷川を次のステージへと踏み出させた。

 だからこそ、残せたプロ2年目の5得点という数字でもあった。先の広州恒大戦のプレーが評価された長谷川は、その後、出場機会を増やしていく。24試合に出場すると、チームは逆転でJ1初優勝を達成した。等々力が初の歓喜に沸いた大宮アルディージャ戦。長谷川は途中出場すると、すぐさまダメ押しとなる5点目を決めて、優勝に華を添えた。

「チームのために自分が一つの駒になれるという自信を得ましたよね。優勝もできたし、結果も残せたので、いい1年になりました」

 しかし、人生はそう簡単に前には進まない。長谷川もはっきりと認める。

「過信というか、慢心が絶対にあったんだと思います」

 プロ2年目の2017年は出場機会が大幅に増えた。5得点を挙げて目に見える結果も残した。3年目の2018年は主力へと台頭する契機にしたい。だが、長谷川に待っていたのは、ベンチを温める日々だった。

 自分のほうが練習でいいプレーをしているのに……。自分のほうがいいのに何で試合に使ってもらえないのだろうか……。

「自分ではなく、自分以外のところに答えを求めてしまっていたんですよね。矢印を全部、外に向けて、自分には非がないと思い込もうとしていたんです」

 主観と客観。自分を信じるとともに、俯瞰して自分を見ることで、自分自身と向き合う。そうすることで、長谷川は自ずと答えに辿り着いてきた。ところが、2018年はしばらく自分自身を見失い続けていた。

 寮を出て一人暮らしをしていたが、再びノートを引っ張り出してくると、今の心境を次から次へと書き殴った。それは苦しんでいたプロ1年目に、思いの丈を綴ったのと同じノートだった。過去の内容を見返せば、同じことが書かれていた。それを見て「何も成長してないな」と、自分自身に落胆もした。

 だが、長谷川は考えることをやめなかった。だから、契機もまた、突然、目の前に飛び込んできたのだろう。

「人に期待しない」

 長谷川は言う。

「知り合いの方からその言葉をいただいたんですよね。人のせいにしていた時期も、自分としては客観視していたつもりだったんですけど、なかなか変えることができなかった。2年目の良かったときのイメージが残っていたこともあったのかもしれない。でも、『人に期待しない』という言葉を見たときに、まさに今の自分はこれだなって思ったんです。監督が試合に使ってくれるかもと期待したり、チームメイトが自分を活かしてくれるかもと期待するのではなく、まずは自分自身がやらなければいけないなと。自分が自分を納得させられるだけやっているのかって。それで自分の中で、まずはいいプレーと悪いプレーの基準を設けて、高い基準のプレーが続けられるように取り組んでいこうと思ったんです」

 サポーターの言葉も奮起する後押しをしてくれた。出場機会が得られない状況が続いていたにもかかわらず、サポーターやファンの人たちは、練習場までわざわざ足を運び、手紙までしたためてくれた。

「そこには僕のプレーが見たいという言葉が書いてあったり、僕が頑張っているから大変な仕事もがんばれる、勇気をもらえると書いてあったんです。チームを応援している中でも、さらに僕を応援してくれる人もいるんだなって、改めて思ったんです。チームを応援してくれている人が、今のこのクラブを作ってきたというのはプレーしていても感じます。一方で、その中でも自分のプレーが好きだと言ってくれたり、自分のために時間を使ってくれる人もいるんだなって。そうした人たちのためにも、自分がフロンターレの中心選手になったり、より高いレベルのプレーができる選手になったりすることで、さらに喜んでもらえるんじゃないかと思えたんです」

 周りに期待せず、まずは自分に期待する。そのためには今まで以上に自分に厳しくなければならない。同時に周りから自分が何かをもらうのではなく、自分が与えればいい。考えることでここまでやってきた長谷川だったからこそ、辿り着くことができた境地だった。

「変わるのが遅かったんですよね……。でも、気づいてから、2試合連続で先発出場することができたんです」

 それはJ1連覇を達成した次の試合だった。J1第33節のFC東京戦で長谷川は先発出場すると、後半5分、知念慶が放ったシュートのこぼれ球に走り込み、ヘディングでゴールを決めた。久々のゴールに喜びながらも、目頭が熱くなった。

 涙ぐんだのは、苦しかった時間から抜け出し、自分に光が射したとともに、サポーターが喜んでくれている姿が目に映ったからだろう。

 だから、昨シーズンは迷うこともなければ、とどまることもなかった。

「昨シーズンもベンチ外からのスタートでしたけど、誰かのせいにするわけでもなく、自分自身に向き合って、その時期を乗り越えようと思えました。『いつものこの時期が来たなって。ここからまた、やってやるぞって(笑)』。それと、自分を成長させようと、いろいろなトレーニングを取り入れてきたことも、自分にとっては大きかったのかもしれません。だから、こんな状況は壁でも何でもないって、昨シーズンは思えましたから」

 そう言って再び笑った長谷川は、自信に満ちあふれていた。

 今まで以上に自分自身のプレーを追求すると、細かいポジショニングや動き出すタイミング、ボールの持ち出し方、トラップ時のボールの置きどころにもこだわった。その結果、得意のドリブルには磨きが掛かり、うまい選手から怖い選手へと変わった。ずっと意識して続けてきた背後への動き出しにしても、その嗅覚は鋭さを増していった。

 チームの練習時間以外にも自分に投資し、さまざまなことを吸収したことで、精神的にも充実し、安定したプレーができるようになった。結果、2019年シーズンはプロ2年目を上回る25試合に出場。5得点をマークしただけでなく、6アシストを記録した。

「昨シーズンの試合でいえば、印象に残っているのはACLのアウェイ、上海上港戦です。それこそ、その試合までベンチ外が続いていたんですけど、調子が良くて、いつ出番が来てもいいように最高の準備をしようと思えたんです。それで試合に出たら、自分の中の形が見えたというか。攻撃も守備も、これがベースだなと思える試合ができたんです」

 挙げたのが、自らが得点した試合ではないところが、いかにも長谷川らしい。また、こんな話も聞かせてくれた。

「ゴールへの形が見えるというか、再現性の高いプレーを常にしたいんですよね。だから、このポジションで、ここに入っていけば、チームにとってこういう効果が出るというのは見えるようになってきました」

 武器であるドリブルにも、成長というか進化が見られる。

「実は3年目まで、そんなにドリブルってしていなかったんですけど、昨シーズンは突破というか、ゴールやアシストに結びつくようなドリブルをするように心がけていたんです。だから、以前の僕と今の僕とでは、全然、ドリブルの仕方も、仕掛ける回数も違っていると思います」

 苦しんだ3年目、乗り越えた4年目と来て、節目となる5年目を迎える今シーズン、こちらとしては否が応でも期待してしまう。それを問いかけてみたが、本人はいたって冷静だった。

「うれしいことに、いろいろな人から言葉を掛けてもらうので、期待されていることも理解していますし、自分としてもレギュラーをつかまなければという気持ちは常に持ちながらやっています。そのために、自分も努力していますけど、そこにはチームの状況があることも分かっている。そのなかで、まずは自分のためにどれだけできるかだと思うんです。何より自分が楽しいと思わなければ、見に来てくれたサポーターの人たちもきっと楽しいと感じられないと思うんですよね。そのためにも、日々の練習の質というか、積み重ね以外にないと思っています。これまでも苦しいことを僕はプラスに変えて生きてきた。その経験が今、積み重なっているし、それはこれからも変わらないと思います。それにドリブルもまだまだ足りないですし、クロスの精度も足りない。身体ももっと強くしたいし、体力の部分も向上させたい。挙げたらホント、キリがないくらいですよ」

 得意のドリブルも、相手の背後を突く動き出しも、ゴールに向かう積極性も、得点を決めるためのシュートも、そのすべてをもっと、もっと向上させたい。

「昨季はルヴァンカップで優勝することができましたけど、リーグ戦ではタイトルを逃してしまった。J1連覇したシーズンを振り返っても、ギリギリでタイトルを獲得したように、このままではダメだぞ、圧倒的じゃなかっただろって言われているような気がするんですよね。まだまだチームとしても成長できる余地はあると思いますし、成長しなければいけないということを教えてもらったと思うんです。だから、今シーズンは、絶対に取り戻さなければならないし、もっともっと圧倒的に強くなりたいなとは思います」

 自分に期待しているからこそ、長谷川の向上心は尽きることがない。そして、その意欲がゴールへと仕掛けるプレーに現れてもいる。本人は、自分を戒めるためにも、人に期待しないというが、いよいよはじまる2020年シーズン、見るこちら側は否が応でも背番号16に期待してしまう。

 そのドリブルに、突破に、そしてシュートに、また拳を握りしめ、思わず身を乗り出してしまう瞬間が待ち遠しい。周りを見渡せば、きっとスタジアム全体が前のめりになっていることだろう。そのとき、等々力はさらに一つになる。歓喜の視線の先にいるのは、間違いなく背番号16だ。

 長谷川竜也は考えることで成長し、そして考え続けることで輝きを増していく。その姿は最高に格好いい。

profile
[はせがわ・たつや]

繊細なボールタッチで狭いスペースを抜け出すドリブルが最大の武器のMF。攻守にハードワークし、チャンスと見ればサイドからゴール前に入り込み得点を狙う。昨シーズンはリーグ戦25試合に出場。先発、スーパーサブと、さまざまな役割をこなしながら着実に成長を続ける。

1994年3月7日
静岡県沼津市生まれ
ニックネーム:タツヤ

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