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ピックアッププレイヤー 2024-vol.07 / GK1/チョン ソンリョン選手

テキスト/隠岐 麻里奈 写真:大堀 優(オフィシャル)text by Oki Marina photo by Ohori Suguru (Official)

来日9年目を迎えるチョン ソンリョンは、ジュニーニョと並び外国籍選手でのフロンターレ在籍年数が最長となった。
最後尾から味方に与える安心感と相手に与える圧力はソンリョンならではのもの。
「いい時も悪い時もチームにはある。常に最善を尽くすことが大事」と言い続け、ピッチ内外でチームを支えてきた。
今、ソンリョンが思うこと──。

 今日は、8月1日です。

 ここまでは、苦しい戦いも多くありました。
 いい時も悪い時もチームにはあります。
 そのなかで、最善を尽くすことが常に大事です。

 私が強く印象に残っていることがあります。

 もう少しで勝利に手が届きそうだったアウェイの磐田戦、終了間際に芝に足が引っ掛かり滑ってしまい失点を許して引き分けに終わりました。

 あの時、チームメイトたちが「大丈夫」だと、私に声をかけてくれました。

 その時に、私たちは家族なんだと感じて、とても自分の力になりました。

 ファン感謝デー前日、中断期間前最後の柏戦では終了間際にPKとなった場面がありました。

 試合前日の練習終わりに、タクマ(大南拓磨)が「勝ってファン感を笑顔で迎えましょう」と言いました。そのことは、みんなの意識にあったと思います。

 PKの準備は、相手キッカーの分析映像を事前に石野GKコーチから共有してもらいました。

 3対2でフロンターレがリードしている場面で、後半アディショナルタイムにPK。自分の記憶にも、これまで経験したことがなかったことです。

「また引き分けになってしまうのか」という思考が頭に浮かんでしまった人もいると思います。

 そんな時、悠が僕に近づいてきて、「絶対に止めてくれ」と伝えてくれました。

 止められるかもしれない。食らってしまうかもしれない。

 今シーズン鬼木監督が、「声がけの大切さ」を何度も強調してきたことを思い出しました。そういう声がけひとつで、PKを止めるという運の方に傾いただろうし、勝利を導いてくれたというものがあったのではないかと思います。

 柏戦の翌日にファン感謝デーがありましたが、本当にたくさんの人が私に声をかけてくれました。

 これまでも感じてはきましたが、そのぐらいに試合に来てくださった方、画面越しに応援してくれた方、本当にたくさんの方々がフロンターレを応援してくれていることを実感しました。

 そういう皆さんの気持ちが、最後に勝利へと導いてくれたのだと思っています。

 さて、柏戦のPKの場面で、GKとして私が、どう思っていたか──。

 VARになり待っている間は、もちろんPKにならない方がいいという気持ちが私にもあります。

 しかし、PKと決まったその瞬間から、私はキッカーに対して少しでもプレッシャーがかけられるように、気持ちでは絶対に負けないようにという準備に瞬間的に切り替わっています。

 相手との駆け引きも始まっています。

 あのPKの場面でも、キッカーの得意なコースも考慮してポジションをとったり、駆け引きをしていました。

 PK以外のシュートシーンでも、駆け引きは大事な要素です。 あえてコースを空けてシュートを打たせることもあります。

 自チームの選手と練習をする時にも、例えばフォワードが10本シュートを蹴るなら、その中で、あえてどちらかサイドに誘導して打たせることもあるし、左右どちらの足で蹴ってくるのかを予測したり、1対1の場面を作ってシュートを打たせるなど、いろんなことを試しています。

 シュートを相手が打つタイミングで、目いっぱい下がって待ち構えることもあります。私は、同じポジションにいて動かないということはほとんどありません。間合いを詰めたり、逆に後ろに下がったり、試合のなかでは突然スルーパスが出てくることもあるので、そうしたいろんな場面を想定しながら練習をしています。

 また、基本的に私は痛みがあっても我慢できる時はやります。少し休んだ方が復帰が早いと判断した時は、休むこともありますが、我慢してできるならやります。これは、選手はみんな一緒だと思います。人からよく言われますが、身体の回復は早いと自分でも感じています。

 その理由? それは、内緒です(笑)。

 恐怖心について聞かれることもありますが、それは私には実感としてわかりません。

 至近距離からシュートを打たれても、怖いという感覚は一切ないです。そのひとつのゴールで負けてしまうかもしれない。逆に、そのひとつを守ることで価値になる。ひとつのセーブで雰囲気が変わることもある。

 相手からすると1対1でゴールを狙う場合、技術よりも精神面で自信に満ち溢れている選手の方が強いとは思いますが、GKが自信を持って対峙したら、シューターは少しでも怯む可能性があるはずです。

 例えば1対1の場面では、タイミングと我慢が大事です。傍から見たら、シューターの方が有利に見えるかもしれませんが、その優位性を少しでも下げる。それも技術のひとつだと思います。もちろんうまくいかないこともありますが、長くプロでやってきて、私のストロングポイントのひとつだと思っています。

 フロンターレの練習でも、これまでたくさんのフォワードからシュートを受けてきました。

 1対1ですごいと思ったフォワードは、(大久保)嘉人と悠です。瞬間的な動き、動き出し、シュートのタイミングの早さは特別だと思います。そういう選手たちと一緒にトレーニングをすることで、お互いに切磋琢磨しながらやってきました。

GK1/チョン ソンリョン選手 GK1/チョン ソンリョン選手

 少しこれまでのことを振り返ってみます。

 私がフロンターレに来たのは、2016年のことです。

 私を初めて獲得してくれた日本のチームがフロンターレであり、あれから9年目を迎えています。

 最初はこんなにも長く在籍できるとは考えていませんでした。私が来日した2016年は、フロンターレはまだタイトルがなく、シルバーコレクターと言われていました。でも、優勝できる可能性は高いとも言われてきました。

 だから、チームメイトとともに優勝をめざしました。

 フロンターレは選手もスタッフもサポーターのみんなも私に親切にしてくれ、通訳の金さんはじめずっとお世話になってきました。

 そういうなかで、2017年のJ1リーグは最終節で奇跡的に初優勝が決まりました。忘れられない出来事です。

「優勝できたチームは、また優勝ができる」とは、よく言われるセリフです。

 そこに至るまでも苦しい経験が何度もありました。

 印象的だったのは、2016年の天皇杯準優勝です。これが、いままでシルバーコレクターと呼ばれてきたフロンターレなんだと私自身痛感したことを覚えています。

 でも、少し視点を変えれば、リーグ戦でも(年間勝点)2位、天皇杯も決勝まで進んだとポジティブな要素もありました。だから、優勝できる可能性があるチームなんだと私も切り替えて考えることができました。

 大事なことは、また2位だった、優勝できなかった。その悔しさをしっかり受け止め、その気持ちを持った上で、前に向かってチャレンジするということだと思います。

 そういう気持ちを持ち続けたから、2017年の初優勝につながったのだと思います。

 優勝を勝ち取ったことで、フロンターレは自信をつけ、本当にそこから優勝ができるクラブへと変わっていきました。

 私が思う勝つチームのメンタリティは、“負けない”チームです。

 もちろん4対0とか5対0で勝てれば理想ですが、そういうわけにはいきません。負ける可能性がある試合を引き分けにし、引き分けを勝利に持って行く、ホームでは絶対に勝つ。そういうことが大事だと思います。

 フロンターレから日本代表に入ったり、海外でプレーする選手も増えましたが、今いる選手たちもみんなそうですが、真面目で誠実に取り組んでいました。移籍したり海外に行った選手たちのことは、仲間だと思っていますし、それぞれに心に残っています。

 そのなかで、ここまで上がっていくんだなと感じたのは、田中碧です。

 彼は、私がフロンターレに来た2016年当時は、まだ高校3年生で、翌年プロ選手になりました。当時は、体もできあがっていなかったし、パワーも足りず、技術的にも成長段階でした。

 覚えているのは、毎日毎日筋トレをしたり、真面目に遅くまで残ってトレーニングをしていた姿です。みんな一生懸命やっていましたが、成長曲線の上がり方を考えると、本当に碧は変化した選手のひとりだと思います。

 昨年の天皇杯優勝も、非常に感慨深い経験となりました。

 2023シーズンは、リーグ戦ではなかなか結果が出ず厳しいシーズンとなりました。

 だからこそ、天皇杯は絶対にタイトルが獲りたいと私自身も強く願いました。

 ACLの切符にもつながることもあり、天皇杯だけは絶対に獲りたい。

 2020年シーズンの天皇杯優勝は、試合数も少なかったので2回戦から勝ち進んだ昨年とは違いましたし、韓国時代にもACLでの優勝は1度経験しましたが、国内のカップ戦での優勝経験はありませんでした。

 昨年は、カミ(上福元直人)が加入し、彼から学んだプレーもありましたし、自分が出られない時期には、トレーニングの時間が長く取れるので、いつもより練習に励み、1日1日を過ごしました。

 自分に足りないと思ったところは、とくにトレーニングをしました。

 

 そうして、迎えた決勝は、フロンターレの時間が決して長かったわけではないので、守る時間が多かったし、とにかく集中していました。延長前半ぐらいに、おそらく水分をとるタイミングもあまりなかったので、少しだけくらっとしていました。なので、ブレイクのタイミングでかなりたくさんの水分をとったことを覚えています。

 

 決勝は、リーグ戦ではない延長があり、PKで勝負が決まりました。

 期待したからと言っていい結果が出るとは限りませんが、後悔がないよう最善を尽くした結果であり、練習後に居残り練習をしたり、選手だけでなくスタッフ始めフロンターレに携わるたくさんの方の力があって、積み重ねてくることができました。

 最後のPKの場面では、自分にもキッカーが回り、「ここまで来たか」と思いました。

 試合が終わってたくさんの選手が涙を流していました。健人が泣きながら私にも抱きついてきたとき、彼がキャプテンとして一年間背負ってきたプレッシャーを感じました。そう感じたのは、やはり彼に対しても家族のような気持ちがあるからだと思います。

 そして、2024シーズンが始まりました。

 今年は、変化もありましたが、常にチームメイトと互いに話し合い、相談しながらやっていくことが大事だと思っています。

 サッカー選手である以上、ケガをすることもあるし、そうしたチーム状況はどのクラブにもあることです。ここ最近は、簡単に負けない、崩れないことを監督が掲げて取り組んでいるので、本当にみんなで切磋琢磨して、一生懸命やっているし、これらもやっていきます。

 また、磐田戦や柏戦で私が助けられた「声がけ」についても、意識するようにしています。

 私自身、言葉は多い方ではありませんが、試合前のロッカールームなどで、必要な時に声掛けをするようにし、それもまた自分の成長につながっていると感じています。

 6月のアウェイ新潟戦の試合前。

 それまでのリーグ戦での数試合、得点がなかなか思うように取れていませんでした。相手チームよりフロンターレのシュート数が、いずれの試合も下回っていました。

 だから、自チームと相手チームのシュート本数をチームメイトに伝えました。

 何か、刺激を与えたかったからです。

 シュートの数を増やし、シュートを打たせる数を減らそうというメッセージです。

 なぜ、そのタイミングで伝えたかということ、試合というのは1試合で状況が変わることもあります。前の試合でシュート本数が少なくても、次の試合でガラっと変わる可能性もあります。

 タイミングを見極めた上で、新潟戦の前に言わなければと感じて伝えました。

 これからも、自分にできることは何かを考えてチームの力になりたいと思います。

 フロンターレで9年目を迎え、2017年の初優勝を経験しているチームメイトは、安藤、悠、僚太、紳太郎、アキ、私だけになりました。

 新しい仲間も増え、切磋琢磨しながら日々のトレーニングに取り組んでいます。

 GKチームでは、安藤は、ずっと一緒にやってきた選手です。お互いにロンドン五輪の代表選手だったので、そこが最初の共通点です。フロンターレ在籍年数も長く、黙々と練習していますし、選手会長としても活動していて、いいやつです。今年は練習の時からよくシュートストップをしていて、さらに成長していると思います。

 ハヤも3年目を迎えて、私自身は韓国でプロになった時には3年間は出られず、4年目から少しずつ試合に出て、5年目で試合出場を重ねて、代表にも選ばれるようになりました。彼にはそうした私の経験を伝えてきましたし、一生懸命取組んでいる姿も見てきました。

 若手選手も今年は多くいますが、みんな頑張って最善を尽くしていると感じますが、ひとり名前を挙げるとしたら新です。

 彼は新潟戦で終了間際にゴールを決めた後、しばらくテーピングを右足に巻いていました。痛みがあったかわかりませんが、きっと本人にとって自分が先発として出るチャンスをものにしたいという思いが強くあったはずです。そういう強い気持ちが成長につながる。フォワードはポジション争いがとくに厳しいので、彼からはそういう強い気持ちが伝わってきます。

 私もそうですが、悠、アキも長くフロンターレに関わるベテランです。

 悠は、試合前やピッチでもみんなへの前向きな声掛けが素晴らしいです。アウェイの広島戦で苦しいときにゴールを決めて、その後に負傷交代しました。私は彼がゴールを決めたとき、ベンチでその姿を観ていましたが、本当に感動しました。短い時間でも結果を出す。本当は、もっと長い時間出たいと思うし、サッカー選手として、長くピッチにいて自分の姿を見せつけたいと思うはずです。彼は、そういう状況のなかでも、ピッチで強く表現ができる選手です。

 アキは、練習でも試合でも、いつも落ち着いて冷静です。彼のそういう姿勢で、周りの選手たちを落ち着かせることができます。最近は、ハーフタイムにチームメイトに、こうした方がいいんじゃないか?とか意見を聞いたり、アドバイスしている場面もあって、彼はそういう一面も持ちあわせています。

 今年はセンターバックとサイドバックはメンバーが交代することもあったなかで、いろんなポジションをこなしながら、みんなで成長してきました。なかには本来の自分のポジションではないところで出ている選手もいただろうし、難しい状況もあったとは思いますが、チームのために最善を尽くしてやってきました。

 とくに声を出す大切さを監督からも言われてきましたが、後ろの選手は、必要に応じて「強く言うこと」が大事です。それを意識するともっとよくなると思うし、自分の前にいる選手たちを声で「戻れ」など細かい指示も伝えて自分が動かなくてもいいように周りを動かして守備をさせる。簡単に中央からシュートを打たれてしまうと、後ろが崩れてしまうので、その前に声で前の選手を動かし、ボールを奪った後に攻撃できるようにする。そのための声は引き続き大事になってくると感じています。

 今年はヤストがキャプテンになり、彼のことも加入の時から知っている選手です。やはりチームにとってキャプテンは中心なので、キャプテンを信じて、みんなを信じて最善を尽くしていく。彼も今年29歳になりベテランの域に少し入ってきているので、そういう部分も含めて、今先頭に立ってやってくれていると思います。

 今年もまだシーズンが残っています。

 引き続き、これまで通りに最善を尽くし、チームのために貢献していきたいと思います。

 監督はじめコーチングスタッフが求めることを、少しでも多くチャレンジしていくことにも変わりません。

 少しでもいい結果が残せるように、目標をもってやっていきます。

 私のこれから先のキャリアについては、遠い目標を設定しているというよりも、毎年毎年、少しでも成長できるように、ひとつでも多くのトロフィーが掲げられることを目標として努力しています。

 もちろん、まだまだプレーを続けたいと思っていますが、未来のことは自分ではわかりません。ただ、大事にしていることは、いつの日か引退する時に、後悔がないぐらいに選手としてやり切りたいと思っています。

 フロンターレは、私にとって家族のような存在です。

 皆さんに、感謝しています。

 いつも熱い応援をありがとうございます。

(追伸)

 先日、鬼木達監督が今シーズンで退任されることが発表になりました。

 7つのタイトルを獲得し、私を成長させてくれた監督です。

 率直に言って、まだ一緒にやりたい気持ちもあるし、寂しいです。

 鬼木監督は、私に年齢を重ねてもなお、チャレンジすることの大切さを教えてくれました。常に成長し、トライをしようと思うと、行動が変わります。

 このことは、今後も自分にとって忘れないであろう大切な柱になっています。

 

 2020年に4-3-3にシステム変更した際には、DFがハイラインになることでGKとしての役割が増え、DFの後ろのスペースをケアすること、攻撃への切り替えの早さを意識して取り組むようになりました。

 その後も、例えば、パスを少し早めに出して次につなげるため判断を早くすることを意識し、展開することにも取り組んできました。

 チームに対しての要求もいくつも心に残っています。

「ハードワーク」「チャレンジ」「成長」「我慢強く、粘り強く」「声を出す」「先制点」「3点取る」──。

 いろいろなことがありながらも、チーム全員で前に進んでいます。

 GKチームも、カミが移籍をし、ルイが加入し、新しいメンバー構成になり、誰が出場しても最善を尽くすということは変わらぬ想いでやっています。

 若い選手たちも成長をしながら、コウタが日本代表に初選出されたり、そういう経験を自信とし、みんなが成長をしていますし、とはいえ、誰も今の状態に満足しているわけではありません。

 今シーズンも残り少ないですが、リーグ戦は1試合1試合、最善を尽くして、順位を上げることが大事です。

 ACLEは、来年に繋がる大会なので、みんなでひとつになって、いい準備をして挑んでいきたいと思います。

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[ちょん・そんりょん]

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体の幅とリーチの長さを生かした超高速反応から繰り出されるセービングでチームのピンチを救う守護神。2016年にフロンターレに加入し、国際経験の豊富さに加えてGKとしての能力がシーズンを重ねるごとに成長している。2024年で来日9年目を迎えるチーム最年長。2024年も数々のタイトル獲得に大きく貢献してきた安定感のあるプレーでチームメイトを最後の砦として支える。

1985年1月4日、大韓民国、城南市生まれニックネーム:ソンちゃん、ソンリョン

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