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SEASON 2016 / 
vol.05

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Taniguchi,Shogo

何かが変わり始めている

MF5/谷口彰悟

テキスト/いしかわごう 写真:大堀 優(オフィシャル)

text by Ishikawa,Go photo by Ohori,Suguru (Official)

2015年はリーグ戦の全34試合にフルタイム出場。
そして日本代表デビューと、プロ選手として理想的とも言えるほどのキャリアを積み重ねている。
だがプロ3年目を迎える谷口彰悟が強く感じているのは、現状維持ではなく変化の必要性だった。
今シーズンより副キャプテンに任命され、ディフェンスリーダーとして、さらなる成長が期待されている男の胸の内に迫った。

 2016年2月27日。開幕戦の相手は、前年度の王者・サンフレッチェ広島だった。

 前々日に染め上げた白銀髪でピッチに立っていた谷口彰悟には、大きなミッションが課せられていた。それは、広島のストライカー・佐藤寿人に仕事をさせないことだ。中山雅史と並んでJリーグの歴史でもっともゴールを奪っている佐藤には、このエディスタジアムで何度もファインゴールを許している。そのミッションは、決して容易なことではない。

 サンフレッチェ広島が採用している〔3-4-2-1〕の布陣は、川崎フロンターレの〔4-4-2〕の布陣と対峙した時にはミスマッチが生まれやすいシステムだ。守備陣はそのギャップを作らされないように、細心の注意を払わなければならない。わずかな隙が生まれれば、そこはJリーグトップのスナイパーに打ち抜かれてしまうだろう。しかもその瞬間は、Jリーグ新記録の誕生を意味していた。ただ谷口彰悟は、その状況を少しだけ楽しんでいた。

「もし寿人選手に決められたら…試合が始まるまでは気にしてましたよ。でも始まってみたら、絶対にやらせないという気持ちが強くなったし、すごく燃えてきました。やられたくない気持ちが強くなれば、自分の集中力も自然と高まりますから」

 ワントップの佐藤寿人が中盤に降りてボールを引き出そうとすれば、谷口がしっかり下がって食いつき、彼にボールが入った瞬間に激しく体をぶつけて前を向かせない。自分が前に出ていくことで生まれる背後のスペースをシャドーの選手に使われないように、味方との距離感を頭に入れながら対応し続ける。相手チームが低い位置でボールを保持してるときでも油断はできなかった。自分が出て行けない局面では、ボランチやサイドバックに大声で指示を出すことで彼らを動かし続ける。珍しく、怒鳴り声のようなコーチングは前線にいる2トップにまで及んだ。

 試合中の谷口彰悟が、いつにもなく声を張り上げていたのにも理由があった。

この試合前のミーティングで、風間監督が選手たちにこんな言葉を伝えたからである。

「声を出そう。声をかけ合えば、ひとつになれる」

 コーチングはサッカーにおける基本中の基本だ。しかし長年、風間監督のもとで指導を受けている谷口の心には、思いのほか、この指示が強く響いていたという。

「新鮮でしたよ。『声を出そう』なんて監督から言われたことがなかったですし、そんなことを言わない人でしたから。それは、監督の中では声を出すのは当たり前だからだと思います。でも、それをあえて言ったことで、チームの中でもみんなから盛り上げる声が出ていました。あれはよかったと思います」

 意識的な声出しは、特に守備陣に効果をもたらしていた。隣で守るのは、FC東京から加入したリオ五輪代表世代のセンターバック・奈良竜樹だ。自分以上に声を張り上げ続けている姿に谷口自身も触発されたという。

「奈良ちゃんがやっている分、自分もやらないと思いましたね。年下ですけど、見習うべきことが多い。闘争心がむき出しだし、そこは自分には足りないものでもある。刺激をもらいました」

 無失点で耐え続けていると、84分に試合が動いた。
ゴールを決めたのは、小林悠。ハーフカウンターから中野嘉大の折り返しに合わせて、ゴールネットを優しく揺らした。そして最後までこのリードを守り切って、1-0でタイムアップ。前年度のチャンピオンチームに敵地での完封勝利。2016年シーズンは、最高に近い形でスタートを切った。

 試合後の勝利の余韻に浸っていた谷口彰悟は、ふと自分の声が枯れていてうまく出せなくなっていたことに気づいたという。

「声が出なかったですね(笑)。久しぶりに喉が潰れるぐらいまで試合中に声を出しました。まだまだ足りないといわれると思いますけど、毎試合あれぐらいやらないとダメなんだと思います」

 前年度の王者相手の無失点試合という達成感が彼を包んでいた。同時に襲ってきた試合後の心地よい感覚は、長いシーズンの始まりを感じさせるものでもあった。

MF5/谷口彰悟

 2015年の谷口彰悟を振り返ると、「フル稼動」という言葉がぴったりと当てはまる。

 リーグ戦全34試合でフルタイム出場を達成した。リーグ戦だけではない。チームとして出場した天皇杯とナビスコカップも含めた公式戦も、全試合でフルタイムの出場だ。しかも一度も警告を受けていないクリーンさだった(フェアプレー賞を受賞)。

日本代表にも選出され、夏には代表キャップも刻んだ。去年、これだけの試合数に出場したJリーガーは数えるほどしかいないはずである。「激動の一年でしたね」と水を向けると、素直に笑みを漏らしていた。

「激動…でしたね。去年は濃かったです(笑)。そしてタフにもなったと思います。全試合出ることにはシーズン前からこだわっていましたし、そこは達成してやろうと思っていましたから。試合に出続けることで、自分の中でも充実もしていたと思います」

 シーズンオフはとにかく休んで、心身の疲れを取り除くことに専念したという。

「しっかりと休むことしか考えていなかったです。怪我もあったので、年末はほとんど動かずに心と体をリフレッシュしました。疲れに関しては、自分でわかる疲れもあるんですけど、自分でもわからないところから来る疲れもあるので、サッカーを忘れるぐらいリフレッシュするほうがいいんじゃないかなと。一回、全部を緩めると言いますか、そういう時間を過ごしましたね」

 たとえ疲労困憊していても、普段の表情や振る舞いにはあまりに出さないタイプだ。だが代表に選ばれ始め、カップ戦の連戦も続いた5月や6月頃には、かつてない疲労感に襲われていたという。本人いわく「フワフワしている感じ」で試合をこなしていた。

 同時に目の当たりにしたのが日本代表選手たちのタフさである。海外でプレーしている代表選手は、この状態に海外からの移動が加わる。その中でも高いパフォーマンスを維持し続けている点は、純粋にすごいと思わせるものがあった。それだけに、日本代表という場は谷口彰悟にとって刺激的だった。

「代表になると、レベルがまたひとつあがるので、個人としてのレベルアップを痛感させられるんです。チームではできていることでも、代表ではうまくできなかったりする。戦う土俵がもう一個上になったのを感じましたね」

 例えば、ボールを奪うプレー。
自分の感覚ではボールを取れる場面だと思っても、うまく体をぶつけられて奪えなかったり、相手のボール裁きが巧みで思うように取れなかった。あるいは、自分がトラップしてから前にボールをつけようと思っていても、トラップした瞬間に相手に寄せられて、簡単にボールを奪われた。寄せるスピードや距離感。あるいは単純なスプリント力…すべてにおいて、代表はさらに一つ上の世界だということを痛感させられた。海外でプレーしている選手には、さらに激しさもある。自分もそこに追いつきたいと思ったし、そのレベルで当たり前のようにできるところまで自分を引き上げないと学ばさせられた。日本代表は、自分自身のさらなるレベルアップを求められることを確認できる場所でもあった。昨年夏の東アジア選手権出場後以来、日本代表から遠のいているだけに、そこに対する思いも強い。

日本代表の場で個人を高める必要性を感じた反面、クラブに戻れば、チームの結果が芳しくなく、そこに悩んだ時期もあった。例えば8月は、リーグ戦3連敗を喫し、チームの歯車がかみ合わない苦しみも味わっている。一体、あの時期のチームの問題点は、何だったのだろうか。

「戦う部分ですよね。あの時期は、単純にもっとハードワークしないといけなかった。切り替えが遅かったり、球際に負けちゃいけないとか、根本的なところが疎かだったように感じました。技術のことをよく言われますけど、戦うベースがないとダメだし、そこは技術ややり方に逃げてはいけない部分だと思いました。もっと厳しく、激しくやらないといけない。そういうところで怠ると、チームの雰囲気も悪くなるし、後ろも我慢できずに失点してしまう。あの時期はそういう流れで負ける試合が多かった。戦うという、根本的な部分が問題だったと思ってます」

 試合に出続けているレギュラーである以上、谷口自身も敗戦の責任は感じていた。ただチームがうまくいかないときに、自分はどうすべきなのか。新人ではないが、まだ2年目の若手とも言える。チームの立ち位置や振る舞いにも、少し悩んでいた時期があったという。

「例えば失点した後に、僕ら守備の選手は、『切り替えようぜ!いこうぜ!』とはなかなか強く言えないんですよ。それは失点してしまっているから。前の選手から『そこは守れよ』という目線を感じてしまうと、申し訳ない気持ちが出てしまう。すると、その後のプレーも縮こまってしまう。そういうところはありました」

 そんな悩みを抱えていたある日のこと。
いつものように寮の食堂でチームメートたちとご飯を食べていたら、何気なくそんな話題になったという。その場にいたのは、谷口の他に、新井章太、大島僚太、小林悠の4人だった。すると彼らの打ち明け話を聞いていた小林が、「そうだよね。じゃあ、俺が前で盛り上げるわ」と申し出た。その小林の言葉に、谷口は抱えていたモヤモヤが晴れて、どこか吹っ切れたという。

 そのときのやりとりは、小林もよく覚えている。

「自分が怪我から復帰する前の、負けが込んでいた時期ですよね。寮でショウゴやショウタ、リョウタとゴハンを食べているとき、『チームのどこがよくないの?』って聞いたんですよ。すると、良い時期は、失点しても前の選手が『気にするな。俺たちが点を取るから』という雰囲気を出してくれていたけど、今は『なんだよ…』という空気になっていると。点を取られた後に、失点している立場であるショウゴやショウタが『切り替えろ』とはなかなか言えないですし、リョウタもボランチだから言いにくいと。『じゃあ、自分がそれをやるよ』と彼らに言ったんです。それから、失点した後に『大丈夫、大丈夫!』と、ディフェンスに対する声かけを自分が率先してやるようにしました」

 実際に、失点後の声かけで雰囲気が変わり、試合の流れも変えた一戦がある。谷口が挙げてくれたのが、9月26日、アウェイのアルビレックス新潟戦である。チームは前半6分に失点を喫している。それもディフェンスに当たって、角度が変わって入ってしまう、ややアンラッキーともいえる形だった。不穏な空気が流れかねないとき、前線で声を張り上げ、声を叩いて後ろを盛り上げていたのが、小林悠だった。

「失点してしまい、嫌だなと思ったときに、『ここから行こう!』という声出しを、ユウくんが率先してやってくれたんです。僕らも切り替えができたし、そういう声が出てくると、みんなの雰囲気も悪くなくなったんです。負けていたけど、ハーフタイムでも『いける!いける!』という雰囲気が出ていた。試合もユウくんがつないでくれました。単純に声を出すとか、雰囲気って大事なんだなと思いましたね」

 後半、0-1のスコアを引っ返す2発を決めたのは、どちらも小林悠である。まさに有言実行だ。過去に一度しか勝ったことがなく、鬼門とも言われているスタジアムで逆転勝利をおさめた成功体験のプロセスは、谷口彰悟にもより印象的なものとして刻まれた。

 谷口彰悟は、今年からチームの副キャプテンに任命されている。

それは、突然の任命だったという。沖縄キャンプのミーティングの終わりに、風間監督から「キャプテンは憲剛。副キャプテンは、嘉人、悠、彰悟」とアナウンスされたのである。

 人が何かを託すときは、それ相応の思いがあるものだ。谷口は、指揮官からのこのメッセージをどう受け止めたのだろうか。

「自分が後ろを統率していかないといけないということですよね。自分が成長する良いきっかけになれればと思ってます。チームとしては、キャプテンであるケンゴさんを中心にやってますし、ケンゴさんをサポートすること。ただケンゴさんが気づかないこともあると思うので、それに気づいて、チームをより良くする働きができれば良いと思ってます」

キャプテンの中村憲剛に聞いてみようと思った。「谷口彰悟に求めたいものは何なのか」と。

 彼の答えは、実にストレートだった。

「リーダーとしての振る舞いだね。自分がチームを勝たすぐらいの気持ちが必要」

 期待しているものも大きいのだろう。中村の言葉は止まらない。

「もっと嫌な奴になれと言うのはショウゴにずっと言っている。怖がられるぐらいの迫力だよね。足は速いし、ジャンプ力もある。ボールをつける技術は、日本でもトップクラスでしょ。でも、まだそこの域を脱していない。だって怖くないから。相手から嫌がられたり、俺のところから攻めさせないと思わせるようなセンターバックになってほしい。ユウジさん(中澤佑二:横浜F・マリノス)とかやっぱり凄いし、要所でちゃんと抑えている。そのためには、ハートから出るようなプレーであったり、味方への声かけ、リーダーシップが必要になる。今は、まだ頼れないかな。優しくていい人だから。でもサッカーはそれだけじゃダメだから。試合中は、もっと嫌な奴にならないと」

 そして最後に茶目っ気たっぷりに、こうおどけた。
「見てよ、大久保を!見てよ、中村を!試合中の性格の悪さはズバ抜けてますから(笑)」

 迫力を出し、相手に嫌がられる選手になる。それは谷口本人が目指すところである。

「駆け引きだったり、ずる賢くやるところはもっとやらないといけないと思ってます。悪質なプレーはやりたくないですが、『コイツ、危ないな』と思われるようなプレーは出していかないといけないと思ってます。声で迫力を出すのもそうですし、前の選手がサボっていたら、ガツンと言う。そのぐらい後ろに迫力がないと、前の選手も任せられないですから。前をやらせるのが僕らの仕事でもあるので、そこは厳しく言っていきたい。後ろが若い分、自分が統率して中心になってやらないといけない。その自覚ができてるし、そこで自分のプレーも変わってくれば一番良いですね。今年は、自分の中でいろいろと変わらないといけない」

 開幕戦で披露した白銀髪も、何かを変える決意の現れだったのかもしれない。

「そこまで深い理由は…あるといえば、あります(笑)。練習にちょっと積極的にやれてない自分がいたので、もっと気持ちを入れてやらないとダメだなと思ったんです。そういう意識も変えたいと思いました。あんな頭をしていると、良いも悪いも目立つので、よりしっかりやらないといけない。そういう思いもちょっとありました。自分を変えるきっかけになればいいですし」

 結局、庄子GMから「やり過ぎじゃないか」ととがめられて、ほんの一週間で黒髪に戻した。ただもしかしたら、彼なりに何かを変えようとしていた結果だったのかもしれない。

 自分を変えることを公言した男の視線の先には、チームのタイトル獲得がある。「そのためには心を鬼にしてやります」とも言い切る覚悟がある。

「チームを動かして、勝たせることができる選手になりたい。まわりを動かして、うまい方向にもっていくところもやっていかないといけないという思いがあります。なにより、勝つためにやりたいです。良い時に連勝できても、悪い時は3連敗してしまう波をなくさないとタイトルは取れないと思ってます。だから悪いときに流れを引き戻すプレー。例えば、後ろが体を張って守ったら、前の選手も俺もやらなきゃいけないと思ってくれるはずなんです。それが連動していけば、試合は自分たちの流れになる。ウチは攻撃が調子良いと、守備がいいんです。でもその逆もできればもっといい。良い守備から自分たちの良い攻撃に持っていく力。それを見につけたいですね。そのために、最後の最後で体を張って、まわりを動かす。そういうプレーをやらないといけないし、そういう選手になりたい。そういうところで、勝敗が変わるスポーツだと思いますから」

 谷口彰悟の中で何かが変わり始めているのは、間違いない。もう遠慮はいらないだろう。その変化が今年のチームにどんな効果をもたらすのか。その結末を見届ける一年になる。

マッチデー

   

profile
[たにぐち・しょうご]

確かな足下の技術とスピードを生かした対人プレーが特徴のMF。守備的なポジションであればどこでもそつなくこなす柔軟性とマルチな才能を備えている。2015年はプロ2年目にして公式戦全試合フルタイム出場を達成。大きな成長を遂げた充実のシーズンをなった。チームの新時代を担うディフェンスリーダーとして1日1日進化を続ける。

1991年7月15日、熊本県
熊本市生まれ
ニックネーム:ショーゴ、タニ

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